第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅳ⑦
「早いですね」
外に出るとロン=スアルが待っていた。ロックたちには話してあるがロックはロンのことを憶えていなかった。
「あんたがプレトリアの人か。まあ邪魔しないように頼んだ」
ロックはロンのことをあまり快くは思っていないようだった。ルークは自分がプレトリアに勧誘されたことを話してはいなかったが、もし話していたら助力は断っただろう。
「はい、もちろん。小物たちのことは任せてください」
カロムも本当はロンの手を借りたくはないだろうが魔道については専門外なので口を挟まないようにしていた。
ロックとカロム、ルークとサイレン、そしてロンの5名だけでドランのアジトに乗り込むのだ。
少数精鋭の方が小回りが利くのとルシアの背後の黒幕を炙り出すには直接ルークたちがルシアと対峙する必要があるのだ。
「本当に気を付けてね。誰も怪我しないように戻って来て」
ルルは不安そうに見送っていた。配下の者が何人も死んでしまっていて心身ともに参っているのだ。
ドランのアジトまでの道すがら、何人もドランの配下の者たちが襲ってきた。剣士も居れば魔道士もいる。ただどちらも俄かなのでロックたちの敵ではない。
「着いたぞ、直ぐに入るか」
5人は普通に正面から入る。建物の周囲にもドランの配下が大勢いたが俄か魔道士たちは建物内で暴走することを恐れてか全員外に居る様だ。
ロンは建物には入らず外の魔道士たちの対応をする。ロンの仲間たちも数人来てくれているようだ。こちらは剣士としては大したことはないが魔道士としてはそこそこ優秀のようだ。
「早かったですね」
奥からルシア=ミストが出て来た。ファルス=ドランの姿はない。
「なんだルシア、お前がドランファミリーの代表か何かなのか?」
「とんでもない、私はただのお手伝いですよ。ところでうちのレフ=ガレンの姿が見えないのですが知りませんか?」
当然ルシアはレフが捕えられていることを知っている。
「弱かったよ」
ロックは隠すつもりもない。
「そうですか、お気に召しませんでしたか、それは申し訳ありませんでした。ただ彼より強い剣士は『終焉の地』にはもうあまり居ないと思いますよ」
「何人かは居るんだろ?どこ行けば会えるんだ?それか俺を襲わせてくれてもいいぜ」
ロックはあえて話を伸ばそうとしている。ルークとサイレンが周囲を探索する時間を稼ぐためだ。




