第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅳ⑥
「もう少しするとザードファミリーの拠点に戻ります。それから多分直ぐにドランの拠点に向かいます。どうされますか?このまま付いてきます?」
「いえ、私も少し仲間を連れて参ります。大勢の方が確実でしょうから。それにあちらこちらで起こっている火災は鎮火してみましょう」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
ロン=スアルとはそこで分かれてルークとサイレンは散歩を続けることにした。
「少し寒いですが気持ちいいですね」
「はい。ルーク様と並んで散歩できる日が来るとは思ってもいませんでした」
二人の会話は途切れ途切れだがどちらもそれを気にしていなかった。
しばらく無言で歩いていると海沿いに出た。
「海ですね」
「はい。ルーク様は海を見られたことがあるのですか?」
「ええ、ロスに行ったときに少しだけ。エローム海は南の海ですね。ここの海は確かノーム海でしたか、北の海の一部でしょうか。多分獲れる魚なんかも随分違うのでしょう」
「ロスはかなり南ですもの。いいですね、私はロスには行ったことがありません」
「いつか一緒に行きましょう」
「ええ、是非」
ルークもサイレンもそんな日は来ないことを知っている。今回サイレンがあの屋敷から出たのは異例中の異例なのだ。サイレンはあの場所でソニー=アレスの母親の面倒を見ていることで許されている身だ。そうでなければ罪人として裁かれているところだろう。
ソニーの母親ジェニファーはサイレンが居ない間はマックス=サイトというアーク=ライザーの部下が面倒を見ている。ただ彼は魔道士ではないので何かあった時の対応できない。用が済んだらサイレンは直ぐに戻らなければならないのだ。
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
二人だけの時間はゆっくり過ぎたが短く終わった。
「戻りました」
ルークたちが戻るとカロムたちの準備は整っていた。直ぐにでも出られそうだ。
ルークは散歩の途中で会ったロンのことを説明した。そして少しだけ待ってもらうよう提案したのだった。
「なんだよ、そんな魔道士モドキなんて俺で十分だろう」
「そうだとは思うけど中には隠れた才能がある配下が居たかもしれないし、念には念を入れてってことだよ」
ロックは自分の手に負えないと言われた気がして少し気に入らなかった。だがそうではないことも理解している。
「さて、行こうか」
外に数人の気配を感じてロックが立ち上がった。




