第4章 厄災の街 港町ロス⑦
「囮に、って意味だね。」
「そう。ロック君とアークには囮になっても
らう。僕とルーク君で彼女たちを連れて街を
出る、ってところかな。二人なら自分の身も
守れるし十分逃げ切れるはずだ。夜が明けな
いうちの方が紛れやすいだろうから、すぐに
でも出よう。ルーク君は魔道で身を隠せるよ
ね、君と彼女一人くらいなら。」
ソニーはレイラを指していった。
「それで彼女は僕が隠すから皆で出よう。」
「君も魔道は大丈夫そうですね。」
「うん、それくらいなら大丈夫。まだまだ駆
け出しだけど、修行はしているから。」
「アストラッド侯の嫡男が魔道士を目指して
いる、なんて父上は嘆いておられたぞ。」
「アーク、それを言うのはやめてくれないか
な。父上の後を僕は継ぐ気がない。パーンに
継がせるつもりだからね。」
「お前の弟は少し病弱じゃないのか。それに
母親は、」
「アーク!」
「悪かったよ、もう言わない。それでも魔道
士になるのは辞めないか。せめて剣士を目指
してくれれば。」
「もうその話はここまでにしよう。行くよ、
アーク。」
六人は二手に分かれて、まずロックとアー
クが部屋を出て外の連中を引き連れて宿を出
て行った。そのあとを目隠しの魔道を自らに
かけたルークとソニーがそれぞれレイラとフ
ローリアを連れて宿を出る。ロックたちが葬
列に出会った街外れの飲み屋前で合流する手
はずだ。
ロックとアークは、こちらも二手に分かれ
て追っ手を引き連れながらわざと路地を迷っ
たように逃げていた。逃げている人数を悟ら
せないためだ。自分一人が逃げるのならロッ
クもアークも容易だった。
「アークさん、そろそろいいんじゃないか。
合流場所に向かおうか。」
一旦二人で合流しロックとアークは皆との
合流場所に向かう。
「止めた方がいい。」
突然後ろから声を掛けられた二人はとっさ
に身構えた。二人ともが気配に気が付かない、
という事実に驚きながら。
「誰だ?」
「今、向かうと疫病に罹った集団に取り囲ま
れるよ。」
「なんだと。じゃあ、あいつらも危ないじゃ
ないか。急いで合流しないと。」
「だから今行くと危ないと言っている、人の
話は聞くものだ。」
「いや、それが本当なら逆に急がないといけ
ないだろう。誰だか知らないが邪魔しないで
くれ。」
声を掛けてきた男もロックたちとかわらな
い年齢のようだったが、黒ずくめで異様な雰
囲気を纏っている。ナミヤ教がらみかも知れ
ない。相手にしている暇はなかった。
声を掛けてきた男を置いて合流場所に急ぐ
と確かにそこには異様な集団が犇めき合って
いた。疫病に感染しているのは見ただけで判
るが、どうも意識が朦朧として自分の意思で
集まっている風ではない。まるで何かに操ら
れているかのようだ。
「これはさっきの男の言う通りだな、ここを
抜け目のは至難の業だぞ。」
「臆したか、俺は行くぞ。」
「無茶をする奴だな。冷静な相方のソニーと
は大違いだ。」
「ソニーは頭のいい奴だから、あいつが考え
て俺が動くんだ。ただ、俺は魔道士が嫌いだ。
これだけがあればいい。」
アークはそう言うと腰の細剣を叩いた。




