第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅳ⑤
「あの時もお声を掛けさせていただきましたがお考えは変わられませんか?」
ルークは前にマゼランでロン=スアルからプレトリアに仕官するよう勧誘されたのだ。
「そうですね、今でも考えは変わっていませんよ」
「ただここでお会いできたのも何かの縁です、少しお話しさせていただけませんか?」
「ごめんなさいね、今は連れも居ますし」
ルークは完全に相手を拒否してサイレンと歩き出した。
「では、どうでしょう。今ルーク様が直面している問題についてお手伝いする、というのは」
ルークの関心が少し動いた。ルシアはサイレンに任せるとしてルシアが変に指導してしまった俄か魔道士が結構いる。その相手をどうするのかは今のところ考えられていない。
ロックとカロムにある程度は任せられるとは思っているのだが制御できていない魔道を乱発されても堪らないのだ。
「何を知っているんですか?」
ロンがどの程度の情報を掴んでいるのか判らない。今この時期にレシフェに居たことは偶然なのか、必然なのか。
「ドランとザードの抗争は見知っております。『終焉の地』のことも。ルシア=ミストは簡単に御し得る相手ではないでしょう」
ある程度は掴んでいるがルシアの後ろの黒幕については認識していないようだった。
「ロック=レパードの剣はとんでもなく有用ですがルシアとその弟子たちの魔道は領としては驚異の筈です」
「そうですね。まあ、僕は彼女でなんとかしますよ」
ルークは相手からの率先した協力を引き出したかった。何かの言質を取られたくはなかったのだ。
「彼女も魔道士なのですね、見た目ではわかりませんでしたが」
ロン=スアルもサイレンのことは知らなかったようだ。
「彼女は僕より優秀な魔道士ですよ」
「それは心強い。では私どもの助力は不要だと?」
「ただ」
「ただ?」
「あなたが今この街で起こっている混乱を少しでも気に病んでおられるのなら率先して力を貸していただいてもいいのですよ」
「なるほど、そう来ましたか。いいでしょう、有象無象の魔道士モドキは私の方でなんとかしましょう。貸しとは思わないでおけばいいということですね」
「話が早くて助かります」
ロン=スアルの実力は如何ほどのものか、今一つ判らなかったが、昨日今日魔道を憶えた下っ端なら任せても大丈夫だろう。多分問題は数だけなのだから。




