第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅲ⑥
「とりあえず早く行くなら行ってできるだけ早く戻ってくることだ」
カロムの了解を得てルークは直ぐにサイレンへと向かった。サイレンからレシフェに来た時は9日間かかったがルークだけで急げば往復で3日というところか。
ただサイレン本人の説得にどれだけ時間がかかるのかが判らなかった。
「さて、残された俺たちはどうするんだ?」
「お前の剣の手解きでも受けようか」
カロムも剣の腕には覚えがあった。ロックにそれほど劣っているとも考えてはいない。
「いいぜ、あんたを負かせたら配下の奴らも俺のいう事を素直に聞いてくれるだろう」
カロムは本気で言ったわけではなかったのだがロックが乗ってしまったので引くに引けなくなってしまった。
「カロム、大丈夫なのですか?」
食客のような存在ではあったがザードファミリー全員にその存在が正確に認識されている訳ではない。なぜルルの傍にいつも居るのか、不審に思っている構成員も多いだろう。
「いいさ、俺もそう簡単に負けるとも思っていない」
カロムはルークがリンク=ザードに勝ったことを聞き知っている。そしてそのルークよりもロック=レパードの方が強いことも。
「では試合ろうか」
ロックは元々カロムとは試合たいと思っていたので渡りに船だ。二人は大剣を構えた。
「おい、お前、始め!の声を掛けろ」
そこに居た若い構成員にカロムが命じる。
「でっ、では、始め!」
その声で一度二人が剣を交えた。但し直ぐに離れて互いに様子を伺っている。
「流石に怖いな」
ロックが言うのはカロムが最初に剣を合わせたときの引き際に実はもう一太刀入れようとしていたことだ。ロックは余裕で避けたのだがマゼランでの試合ではまず掛けられない、どちらかというと騙し討ちと言われても仕方ないカロムの剣だった。
「お前こそ、今ので終わらせるつもりだったのだがな。避けられるとは思っていなかった」
「卑怯とは言わない。それがお前たちの命のやり取りをやって来た剣なのだな」
ロックは感心していた。カロムは普通に強いだけではなく様々な卑怯なことも出来る、と見ておく必要がある。但しロックも為す術がない訳ではない。その全てに対応してこそ高みに登れると思っている。正々堂々としているだけでは今後も負けてしまうことも増えるだろう。




