第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅲ②
「それで、人を集めてこれからどうするんだ?」
「とりあえずはこれ以上犠牲者を出さない。それ以外は未定だ」
カロムは復讐に囚われてしまうと思っていた。ルルも意外と冷静だ。ただ逆襲を決断するとしたら、そこからは大攻勢が始まる気がする。
「ロックには引き続き姉の護衛を頼む。ルークはここでアジトを守って欲しい」
「あんたしどうするんだ?」
「俺は少し自由にやらせてもらう」
「まさか、一人で殴り込みに行く気じゃないよね?」
堪りかねてルークが口を挟む。カロムの暴走はルルも認められないだろう。
「私のことはいいからカロム、単独で動いてはダメよ。もし外へ行くのならここはルークさんにお願いしてロックさんと一緒に出る様にして」
ルルの右腕でありファミリーの幹部ではあるがルルにとってカロムはただ一人の肉親なのだ。
「配置としてはそれでいいのかもね。でも僕もルシアの師匠が出張ってきたらどうしようもないよ」
「ルシアの師匠って?」
「数字持ちの魔道士序列第3位の大地のザトロスがルシア=ミストの師匠なんだよ」
カロムでもその名前は知っている。数字持ちの魔道士はその存在が天災扱いなのだ。
「それはかなり拙いんじゃないのか?」
「いや、ミストは師匠とは別行動だと言っていたけれどね。でもザトロス老師の動向は僕では全く把握できないし、万が一敵対してしまったら本当にこのファミリーは壊滅する可能性もある」
「ルシアの言葉を信じるしかないのか。闇ギルドの魔道士の言葉が信用できるのか?」
「判らない。ただその要素は考慮しないことにしないと何一つ対策は建てられない。出てきたら全面敗走あるのみだね」
「数字持ちとはそれほどのものなのか」
「それ以上だよ。面と向かったら足が竦んで動けないくらいにね。対抗できるとすれば魔道を放つよりも速く剣で抗うしかないね。ただ老師は無詠唱で魔道を打ってくるから実際には難しい」
「ルシアの魔道ならなんとかなるってこと?」
実際には数字持ちの魔道士が破格すぎるだけでルシアも魔道士としては高位なのは間違いない。但しルークはルシアを制御できないとは思っていない。
「余程何かを周到に企んでこなければね。でもそれだけの時間を与えてしまっているかも知れない。ただザトロス老師の件は残滓も全く見受けられなかったら多分大丈夫じゃないかな」
「そんなの本気で消されたら見つけられないんじゃないのか?」
ロックも少しは魔道に付いて判ってきている。特に何人かの数字持ち魔道士に出会ったことはいい経験になっている。
「ザトロス老師なら残滓を消すような真似をする必要がない、ということだよ」
自分の関与を疑われようがどうしようが気にする必要がない、という意味だ。




