第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑩
「カロムさんが常時付いていただければいいのですが」
「それは無理だな。俺は俺で用事が多い」
確かに主将・副将が一度に襲われたら一気にかたが付いてしまう。別行動の方がいいのかも知れない。ルークはロックの方を見た。
「なんだよ、俺か。まあ仕方ないな」
それから数日は特に何も起こらなかった。るるが外出する時は必ずロックが付いて行った。ザードファミリーの構成員からは異端視されていたがルークとの模擬戦を見せたら誰も何も言わなくなった。
いずれにしてもカロムが認めてルルが承認しているのだ、文句は付けられないのだろう。
「何も起こらないな」
手持無沙汰でロックが寝転んでいる。二人は今は食客という立場になってしまった。これではザードファミリーに与していると思われてしまうのだがルルの安全を守ることが最優先なので仕方ない、という結論になったのだ。
「怒らない方がいいよ」
「いや、ルシアを使ったりしているんだぞ、このまま終わる訳がないじゃないか」
それはロックの言う通りだ。相手はざーどファミリーを壊滅させると言っているのだ。今は嵐の前の静けさ、というところか。
「それでも何もない方がいいよ」
二人かそんな会話を交わした次の日。ついにことが起こってしまった。
ザードファミリーの拠点の一つに火が放たれたのだ。中には若い構成員が5人、その全員が焼死という有様だった。
相手は建物の出入り口を塞いだうえで炎系の魔道を建物内に放ったのだ。周辺の建物には被害は及ばなかったが拠点はほぼ全焼、拠点といってもそこは貧しい貧民の為に一定の食料を保管してある倉庫だった。その食料も全部燃えてしまったのだ。
「なっ、なんてことを」
知らせを聞いて直ぐに駆けつけたルルとカロム、ロック、ルークはただ茫然としてしまっていた。今回の抗争では負傷者は少し出ていたが死人が出たのは初めてのことだった。それも見るからに惨たらしい有様で。
建物の焼ける臭いの中、それとは別の親しいものが焼ける臭い。集まった手下の中には嘔吐してしまう者もいた。その中でルルは気丈に振舞っているが身体はずっと震えていた。
「カロム、人数を集めなさい」
怒りで震える声でルルが命じる。
「姉さん、いいのか?」
「まさか止めたりしないでしょうね」
「そんな気はない。あんたたちも異論はないだろうな」
ロックとルークは口を挟めなかった。仲間を焼き殺されたのだ、掛ける言葉が見つからない。




