第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑨
「判ったことは一つだけですね」
「一つだけ、とは?」
「向こうには軽々に抗争を終わらせる気が無い、ということが判った、ということです」
ルルの表情はそれが判ったところで、と言いたげだったが口にはしなかった。
「それでお二人はこれからどうされるおつもりですか?」
邪魔をするなら排除する、という意味が現れた口調で問う。
「何も変わりませんよ、僕たちは抗争を止めたい、ただそれだけです。人が死なない、ファミリー以外の人や物に迷惑を掛けない、というのが最低限の理想ですね」
「理想と最低限と言う言葉が合ってないんじゃないか?」
珍しくロックがルークに突っ込む。黙っていることに飽きたのかも知れない。
「ロック、そう言うなよ。何か別の意見があるのか?」
「いや、無い。考えるのはルークの仕事だ、頑張ってくれよ」
「判ったから、ちょっと大人しくしててよ」
そう言われてロックはまた黙り込む。ロックはただ戦う場が用意されればそれでいいのだ。但し無駄な殺生をする気はない。弱い相手とも戦う気が無い。今のところロックが戦いたいのはカロムとファルス、そして見てないがレフといったところか。
「お二人の考えはお聞きしました。それではウチと協力して抗争が終るよう尽力していただけると考えてよろしいのでしょうか?」
「協力というか、悪い言い方をさせてもらうとザードファミリーもドランファミリーも利用して抗争を収める、というようなことを企んでいるんですよ」
ルークにも今すぐに妙案が有る訳ではない。ただどちらかに味方をして相手を潰すような解決の仕方は絶対にしたくないと思っていた。どちらにも被害も出させず抗争が終った後も含めて争いが無くなることを願っているのだ。
「都合のいいことを考えておられるのですね。ウチとしてはウチが今の形のまま存続できれば問題ありません。ただウチに犠牲が出れば、それ相応の報復はさせていただきます。その結果がどうなっても、です。そこだけは譲れません」
身内の犠牲は徹底抗戦を生んでしまう。それはお互い様なのだろう。ただ今のところザード側には積極的に相手に犠牲を強いる気が無いのに反してドラン側には積極的に強いる気で準備が着々と進んでいる、というところだ。
「それで相手の、その『終焉の地』という闇ギルド実力はどうなのですか?」
「今魔道の指導をしているルシア=ミストの力は相当なものです。僕一人で抑えきれるかどうかは判りません」
「ルークなら問題ないさ。変な邪魔が入らなければな」
「では剣士の方はどうです?」
「そのレフ=ガレンはマゼランのスレイン道場で元副将を務めた男のようです。まあリンク=ザードよりは数段おちるかと思いますよ。ただ暗殺剣としては拮抗するかもしれませんね」
ルルが暗殺される、若しくは単に襲われただけでも一気に全面戦争に突入してしまう。それだけは絶対に避けなければならない。




