第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑧
「それであなたたちがロック=レパードとルーク=ロジックのお二人ということでよろしいのですね?」
「はい、僕がルークです、そしてこっちがロック=レパードになります」
ロックはルルの対応はルークに任せることにしたようで話には入ってこない。
「お二人の素性はお聞きしました。それで何故私の断りもなしにドランに向かわれたのですか?」
ルルは少し怒っている風だ。自分が知らない内に話が進んだことにいら立ちを憶えているのだろう。
「申し訳ありません。ただザードファミリーの代表としてドランを訪れた訳ではありません。厭くまで現状把握のためこちらとドランを訪ねただけなのです。僕たちはどちらの味方でもありませんし、どちらの敵でも有りません。ただいらぬ抗争を終わらせたい、というだけの立場で行動させてもらっています」
「いいえ、あなたたちがウチの事務所からウチの構成員と共にドランを訪れたことは向こうも既に把握していることでしょう。とするとあなた達はこちらの陣営の一員だとしか認識されない筈です。あなた達が何を言おうと何をしようとそれはざーどファミリーに資する行為だと思われるでしょう」
ルルの見方は正しい。いくら中立を主張しても信用されないのかも知れない。ただ二人は本当にただ抗争を終わらせたいだけなのだが。
「確かにそうかも知れませんね。でも僕たちの思いは変わりませんし以後の行動も変わらないことをお約束しますよ」
ルークの意志の強さにルルは少し驚いたようだった。お飾りだと言われているとはいえザードファミリーを束ねる自分に対して一歩も引かない若者に少し興味も出て来た様子だった。
「なるほど狼公の養子と言うのも本当、という事なのですね。判りました、特にウチはお二人の行動に関して制限をしないと約束しましょう。場合によってはお手伝いすることも吝かではありません。ただ問題は相手の出方、という事になります」
ザード側は元々共存を模索しているのだ。抗争を続けたり拡大する意思はない。ただ相手から手を出されては黙っている訳にも行かない。それでは示しが付かないのだ。
「それでドラン側はどうでしたか?」
「それなのですか」
ルークはドランファミリーを訪れた際のことをルシアとの関係も含めて正直にルルに伝えた。変に隠し事をしても仕方ないし出来れば両者の信用を得て打開策を模索したいのだ。
「なるほど。でも少し気になることが有りますね」
「なんですか?」
「ファルス=ドランの印象です。事前にこちらで掴んでいた物とは少し違っているような気がします。もっと冷酷無比な冷たい表情を常に浮かべていると聞いていましたから」
確かにそんな感じでは無かった。冷たい表情を表面に浮かべているようなことは会っている間には一度も無かった。
「本人に間違いはないのでしょうね?」
ルルはそこから疑って来た。確かにファルス本人かどうかはロックたちには確認のしようがなかった。ただルシアとの会話や素振りからするとルシアの雇い主であるファルス=ドラン、その人だとしか思えなかった。
「多分それは間違いないかと思います」
「まあ、いいでしょう。では結局何一つ判らず仕舞いということですね?」
「そうなりますね」
ルルの表情は落胆だった。一応二人には期待していたのだ。これでは抗争は続く。ルルの基本方針も抗争終結で間違いはないのだった。




