第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑦
「お話はお伺いしました。特にこれ以上はお話しすることはありませんのでお引き取り下さい」
それだけ言い残すとファルス=ドランは奥に引っ込んでしまった。取り付く島もない。
ルシアですら状況がの見込めないで唖然としている。
「なんだ、どういうことだ?」
残された三人の共通の感想だった。
「おい、ルシア、何がどうなっている?」
「私に言われましても。ファルス=ドランはあなたたちとは話す気が無い、ということなのでしょう」
ルシアは自分なりにファルスの行動に意味を見付けようとしているのだろう。但し、それが正解なのかはルシア本人にも判らない。
「交渉は決裂、抗争は続くというということなるのかな?」
そのルークの声には失望の色が濃く表れていた。
「私にとっては続こうが終ろうが依頼を全うするだけですよ」
確かに『終焉の地』のルシアからするとその通りだろう。ルシアは抗争を終わらせてくれと依頼を受けた訳ではない。ドランファミリーの構成員に魔道と剣を教えてくれ、と言われているだけなのだ。
「とりあえずこれ以上お話することはありません。お引き取り下さい」
ルシアに建物の外まで案内されて二人は仕方なくザードファミリーのアジトに戻ることにした。
歩き出すと直ぐにアウト=ソレユが寄って来た。ドランファミリーの建物からは見えない位置だ。
「で?」
「で?」
「どうだったんだ」
「ああ、戻ってからカロムに話すよ」
ロックもルークも結局何の話も出来なかったに等しい。どう報告するものか、悩んでいるのだ。
アジトに戻るとカロムが女性と一緒に待っていた。女性が座っていてカロムが立っているところをみると、この女性がザードファミリーの首領ルル=ザードなのだろう。
「以外に早かったな。捕まって戻ってこれないかも知れない、と思っていたのだが」
カロムは新たな抗争の切っ掛けにならなければいいが、と懸念していたようだ。
「紹介する、こちらかルル=ザード、俺の姉だ」
カロムはファミリーの代表だとは紹介しなかった。もしかしたらファミリーからは遠ざけたいと思っているのかも知れない。ただ本人がそれを許さないのだろう。
「初めまして、私がルル、ルル=ザードです。宜しくお願いします」
丁寧な口調ではあるが芯の強さが見える、強い女性のようだった。




