第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑥
「俺にも判るように言えよ、ルシア」
「ルシア本人は手を出さない、って事じゃないかな?」
ルークが口を挟む。ルシアには応える気がないようだ。
「じゃあ誰が手を出すっていうんだ?」
「多分ルシアが魔道を、若しくはレフ=ガレンが剣を教えたドランファミリーの厚生員、というところだと思うよ」
「そんな奴らの相手を俺がしなくちゃいけないのか?」
「ロックさん、誰もあなたに相手をしてほしいなんで言ってませんよ。出来れば大人しくしていて欲しいものです」
ロックは強い相手とは戦いがルシアやレフの弟子では物足りない。できればルシアやレフ本人と戦いたいのだ。
「ルシア、それかそのレフとかイウつでもいいが、どっちかと俺で戦って俺が勝ったら抗争は止める、ということでどうだ?」
「ロックさん、それは私の一存ではどうにもなりませんよ」
「じゃあ、そこのファルス=ドランさん本人なら決断できるんじゃないのか?」
話を振られるまで対応をルシアに任せていたドランファミリーの首領は少し驚いた表情を見せたが直ぐに元の無表情に近い笑顔に戻った。笑っているのでない、ただ少しだけ笑っているように見える表情を浮かべているのだ。
「ああ、そうですね、私が決めれば多分大丈夫でしょう。でもザードファミリーの方はどうなのですか?ロックさん、あなたが全て任されているとでも?」
ファルスもルシアに全権委任しているつもりは毛頭ない。それはザードファミリーにしても同じことだと思っている。
「任されてはいないが抗争が終れば文句は無いだろうさ」
「勝手に終わらせても問題は無い、と?」
「当り前だろう。それともあんたはどうしてもザードファミリーを皆殺しにしたい理由でもあるのか?」
やはりロックは何でもストレートに聞いてしまう。
「言う必要が有るのか?まあ、あると言われても言わないがね」
ファルスは少し浮かべた笑顔のままだが胸の内は計り知れない。どうも個人的な恨みでもあるように見える。
「いままで小競り合いだとしても抗争を続けて来たんだ、人の生き死にの問題になったことも多い。抗争が簡単に終わらせられるとは思わないことだな」
自身の個人的な恨みについては言及しないが二つのファミリーには今まで積み上げて来た物が深すぎるのだろう。ただロックにはそんなことは関係がない。
「抗争を終わらせることが今の俺の使命だ。何か方法を考えようじゃないか。人が死んでも何も良いことは無い」
ロックは強い相手と戦いだけで相手を殺したい訳ではない。ただ命を掛けた戦いを避けるつもりもないのだ。




