第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ⑤
「殲滅ってことは皆殺しってことだよな。そんなこと簡単にできると思っているのか?」
「できる出来ないではなくて、やるやらないじゃないですかね。その気にならなければ殲滅で決め武力があってもできないと思いますよ」
ルシアは真顔で言う。自分が変なことを言っているとは思っていない。
「敵対する組織を皆殺しにするって言うのは極端すぎないですか?」
「後に遺恨を残さないように、という考え方に基づいているだけですよ」
あまりにも物騒な考え方だ。
「で、ロックさんたちはどうしてここへ?」
聞くまでも無いことをルシアは態と聞いてくる。
「ドランファミリーとザードファミリーの抗争を止める為だよ」
ロックは隠し事が出来ない。解くと場合によっては嘘やごまかしも必要だと知ってはいるが自分がそれをする気がないのだ。
「なるほど、ということはザードファミリーに付く、ということでいいですね?」
「馬鹿、違うだろう。どっちにも付かないで抗争を収めるんだよ」
ロックの発言は核心を突いている。ドランに『終焉の地』が付いてザードにロックたちが付けば抗争が長引くだけだ。
「それは一体何をしようと言うんですか?」
ルシアも少し戸惑っていた。てっきり敵対するために、ロックがルシアを倒すとかの方法を取りに来たのかと思っていたからだ。
「何を、って元々の抗争の基を断つんだよ。その上でどうするかを決める。でないとこのまま抗争が続けばレシフェが疲弊するだけだ」
レシフェに蔓延っている影の二大組織であるドランファミリーとザードファミリーが互いを殲滅するまで抗争を続けたとすればアストラッド州の州都でもあるレシフェは火の海に飲み込まれかねない。
今まで二大勢力が均衡していたからこそレシフェは平穏な日々を送れていたのだ。
「なるほど、あなたの目的は理解しました。ただ私はここに依頼を受けてきています。その依頼を達成することが今の私の使命。それを妨げようとするのであれば、あなたとは敵対したくはありませんが、そうせざるを得なくなります」
「そうせざるを得ないとなれば、どうするんだ?」
ロックは意地の悪い口調でルシアに迫った。
「正面切ってあなたと戦う気はありませんよ。ただ」
「ただ?」
「ええ、正面切っては戦う気が無い、ということです」
「なぜ同じ言葉を繰り返すんだ?」
「大切なことだからですよ」
ルシアはロックよりも遥かに意地が悪い顔で返すのだった。




