第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱Ⅱ④
「居たのか」
「居ますよ、そう気が付いて来られたんじゃないのですか?」
そこに居たのは『終焉の地』のルシア=ミストだった。
「お二人とも、ご無沙汰しております。またお会いできて光栄です」
「俺は会いたく無かったがな」
「そう仰るとは思っていましたが」
「ザトロス老師は一緒じゃないのか?」
ロックはストレートに聞いてしまう。正直にルシアが応えるとは思えない。
「今は別行動ですね。レシフェに入る前に別れました。ここへは『終焉の地』として仕事で来ていますので」
前回の時も仕事だったはずだが。ただロスでの件の後、ロックたちから逃げていたのは仕事ではなかった筈だし、ミロを拐したのも仕事ではなくロックたちの追撃を躱すためだった。
「そうなのか。で、ここでの仕事って?」
ロックは全てそのまま聞いてしまう。駆け引きとかは無縁なのだ。
「ただの指南ですよ、魔道と剣のね」
確かに事前に聞いたことと一致はしている。ただ問題はそんな指南を態々闇ギルドの『終焉の地』に依頼したりない、ということだ。
「本当にそれだけか?」
ルークは横で冷や冷やしながら聞いているが、ロックはお構いなしだ。
「それだけです。殺しの依頼なんて受けていませんよ」
多分それは嘘だろう、とルークは思った。ルシアが正直に答える保証はないのだ。
「ドランファミリーからの依頼で魔道を教えているのか?」
「そうですね、私は魔道担当です。剣の方は別の者が教えていますよ」
剣の方はレフ=ガレンという『終焉の地』でも一、二を争う剣士が担当しているらしい。アストラッド州の出身で元はスレイン道場で副将を務めていた剣士だ。『終焉の地』に勧誘されて2年前から『終焉の地』内でも剣の指南役を務めている。
ただレフが教えるのはスレイン道場で学んだ通常の剣ではなく暗殺剣だった。レフ本人はこと暗殺に関しては公王直属の暗殺部隊キル=ホーラのネーズ=カーター隊長にも劣らないと自負している。
「暗殺剣ねぇ、一度試合ってみたいもんだ」
話の途中でロックの興味はレフの暗殺剣に移ってしまった。ルークが話を元に戻す。
「ルシア、それでドランファミリーはザードファミリーを倒してどうするつもんなんです?」
「倒す、というか依頼は殲滅できるようにして欲しい、という事でしたがね。今のところ順調に来ていますのでザードを殲滅できる日も近いのではないかと思っていますよ」
殲滅とは皆殺しのことか。物騒なことを平気でいうのは暗殺ギルトの幹部なのだから普通のことなのだろうか。




