第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱⑩
「ドラン側の内情詳しい手下は居ないのか?」
「そんな密偵みたいな奴は居ない。逆にウチには居るかも知れんがな」
カロムは大物ぶってはいるがあまり細かいことが苦手なだけなのか。
「じゃあどんな奴がドランの組員の修行を付けているのか判らないってことだな」
「それは判っている。ちょっと噂になっていたからな」
「どんな奴だ?」
「なんでも闇ギルドの人間だとか言っていたな」
まさか、とは思ったがなんだか予想通りの、それも悪い予想の展開らしい。
「なんて名前の闇ギルドか判るか?」
「たしか、そうだ『終焉の地』とかいう闇ギルドだ」
「ロック」
「ああ、嫌な予感ってのは当たるもんだな」
「どういうことだ、知っているのかその闇ギルドを」
「ちょっとした縁があってね、何人か知っている奴がいるんだ。勿論敵としてだがな」
「なるほど、それはウチにとってはお前たちは適任ってことだな」
「ただ悪い因縁があるだけだよ。だが『終焉の地』が絡んでいるのなら、やっぱり俺たちも関わらないと駄目なようだ」
ロックは積極的に絡むだろう。それはルークも同じ気持ちだった。ただ問題は『終焉の地』の誰が関わっているのか、というところか。
「一度向こうにも行ってみるかな」
「そうだね、今からでも行ってみようか」
「おい、まさか二人でドランに乗り込む気じゃないだろうな」
「なんでだ?そのつもりだが?」
カロムはあきれ顔だ。確かにザードファミリーのアジトにも二人だけでやって来た。ドランにも二人で乗り込んで普通に帰ってきそうだ。
「まあ、さすがにあの男は居ないんじゃないかな?」
「ルーク、そんなことを言っていると必ずあいつがいる気がするぞ」
「ごめん、悪かったよ。でも本当にルシアがいたりしたらちょっと厄介だね」
「名前を出すと余計に、まあ、いいか。居たら居たで決着を付けたらいいさ」
「ルシアが居るだけならまだいいんだけど、ザトロス老師が出張ってきていたら僕たちだけでは太刀打ちできないよ」
「それは居ないことを祈るだけだな」
『終焉の地』幹部ルシア=ミストの師匠である数字持ち魔道士序列第3位、大地のザトロス。そのザトロス老師に対抗できると思うほどルークは自分を過信してはいなかった。




