第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱⑨
「お前たちが手伝ってくれる、とでも言うのか?」
「手伝うって言うか、剣や魔道を教えるってのはどうだ?」
「直接手は下さない、ってことか。確かにドランにもそういった人材が居るんじゃないかとは思っていたんだ。でないとドランの奴らが急に剣士になったり魔道士になったりするのは説明が付かない」
剣士や魔道士を雇って構成員に教えた、というところだろう。
「そんな感じじゃないかな。でもそうまでしてザードファミリーに喧嘩を吹っ掛けてきたドランの目的が判らない、ってところなんじゃないのか?」
「その通りだ。理由が判らない。ただ一つだけ、もしかしたらという心当たりはあるんだ」
「それは何だ?」
「薬だ。その薬を使うと天国に連れて行ってくれるらしい。ただ中毒性があって飲めば飲むほど飲まずにはいられなくなるようだ
その薬が最近レシフェに出回りだしたんだが、もしかしたらドランが売りさばいている可能性があると睨んでいるんだ。ウチは薬の類は絶対に扱わないからな」
「それがあんたたちの矜持って訳か」
「それほど確信めいたわけではないが、そういうことで普段からやっている、というだけだ。ドランもちょっと前までは同じ考えだった筈なんだが、つい先日頭が変わってからどうも可笑しくなってしまった」
「新しい頭が薬を扱い出したってことか。それにはザードファミリーが目障りだと?」
「ファルス=ドランならそう考えても仕方ないかも知れない」
「どういう意味だ?」
ファルスはカロムの姉ルルと同じ歳なんだが小さい頃に人攫いに拐されて東方に売られたらしい。酷い少年時代を送ったようだ。それでもなんとかレシフェに戻って来たのが3年前。
その後ドランの後継ぎと認められる前に先代が亡くなって急遽跡目を継いだのが半年前だったらしい。
「跡目と認められる前、というところが引っかかるな」
「それは俺たちも、というかドランの奴ら以外の皆が思っていることだ。もしかしたらドランの中の奴も色々と疑っているかも知れない」
ドランの先代の子供という事は間違いないらしい。ただ急に戻っってきて跡継ぎだと言われても素直に従う者の方が少ないだろう。
実力を示すため、ということは集金力の強さを示すため薬に手を出した、という所なのかもしれない。
「ドランは色々と内情も問題がありそうだな。でもなんで剣士や魔道士なんだろう。今まで通りでも抗争は出来だろうに」
「圧倒的にウチを負かすことが目的じゃないか?それでレシフェはドランファミリーに立てつく所は無くなるからな」
「そんな目的の為に雇われる剣士や魔道士もあまり居ないとは思うんだが」
剣士はほとんどが騎士団に所属している。そうじゃない剣士はマゼラン以外にはあまり見かけない。居るとすればレシフェで個人的に開いている道場くらいだが、そんなところには強い剣士は望めない。
魔道士も魔道士ギルドがあって大抵はそこに所属している。魔道士も城付きの魔道士はいるが市井にはあまり見かけない。『終焉の地』みたいな闇ギルドや、あとは宗教関係者が魔道を使える者もいる。
いずれにしてもドランファミリーのような極道に雇われる剣士や魔道士はそうそう居ない筈なのだ。
「ちょっとだけ嫌な予感がするね、ロック」
ロックもルークと同じことを思っていた。またあいつに会う事になるかも知れないと。




