第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱⑧
「そもそもウチとドランの所は同じファミリーだっんだ。それが先々代の時に別れたんだ。ウチが本家だがな」
極道の世界にも本家とか分家なんてものがあるのだ。
「だから、まあ特別仲が良かった訳ではないが向こうが殊更事を構えない限り敵対するようなことは無かったのだ」
「それがつい先日から、どうもウチのことを目の敵にしているかのような感じで下っ端の者たちが狙われ始めている、というのが例えば今日お前たちが見たものという訳だ」
ザードファミリーにはドランと揉めるようなことは何一つなかったらしい。ドランが突っ掛かってくる理由も心当たりがないらしい。
ただ一つ、ドランがザードファミリーに突っ掛かってくる方法が今までのドランのやり方とは違っている。今までならもし何かあったとしても基本的には得物無しの素手の喧嘩しかなかったのが今は剣や魔道を使って来るらしい。
元のドランの構成員には剣士や魔道士は一人も居なかった。それが雇ったのではなく元々居た構成員が剣や魔道で襲って来るのだ。
「今までの奴らとは間違いなく別物だ。あんな戦い方をする奴らではなかった。勿論こちらも対抗手段として今剣士や魔道士を雇おうとしているんだが如何せんレシフェでは剣士は騎士団が管轄しているから雇えない。魔道士はレシフェにはほとんど居ないからな」
結論としては何かが起こっていることは間違いないがザードファミリーとしてはそれが何なのか、まだ判っていないということだ。
「それでこれからどうするつもりなんだ?ドランと全面戦争でもするのか?」
「そんなことをすればレシフェが壊滅してしまうだろ」
「ではどうするつもりなんだ?」
ザードファミリーの中でも意見が分かれているらしい。本家としての矜持からドランを壊滅するまで叩け、という意見もある。ただ今カロムが言ったようにレシフェが大打撃を受ける可能性が高い。
「今のとこウチから何かを仕掛けるつもりはない。ただ向こうが来るなら受けて立つだけだ」
「でも剣士も魔道士も居ないんだろ?」
「それはそうだが、そんなことば俺たちは負けたりしない」
「気持ちだけではどうにもならないこともあると思うが」
ロックもルークもザードファミリーとドランファミリーのどちらが悪いのか、どちらに原因があるのか、全く見当がついていない。ただロックの勘でこちらに来ただけだ。
どちらかの肩を持つことは根拠がない今の状況では簡単に決められることではない。
ただドラン側が剣士や魔道士を使って仕掛けてくるのであればザード側も同じように県都や魔道士を用意しなければならない。
「剣士と魔道士なら、ここに居るけどな」
ロックが自分たちのことを自薦する。
「ロック、今の状況でそれは」
「いいんだよ、ルーク。俺に任せてくれ」
ロックは自らの勘に今回は何故か絶対の自信を持っているように話す。
「本当に大丈夫?」
「多分」
いや、どうもロックもあまり自信が有る訳ではないようだった。




