第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱⑦
ザードファミリーのアジトの中は外からは想像できない程洗練された豪奢なものだった。レシフェの、というよりはアストラッドの2大勢力の一角というのも判る気がする。
「それでお前たちは一体何者なんだ?」
大きなソファに幹部が座り、ロックは立たされている。ルークは縄を掛けられて部屋の隅の床に座らされた。そこには縄を繋げるようになっている。これはよくある状況なのだ。
「色々と聞いたんだが、本物なのか?」
幹部は色々と調べたようだ。
「何をどう聞いたのか知らないけど、多分本当だよ」
「では、お前がロック=レパード、聖都騎士団副団長の次男で去年の御前試合の優勝者、ということで合っているんだな」
「間違いないね」
「それでそっちがルーク=ロジック、アゼリア公の養子だというが、それは確認が取れなかった。だがお前が本物なら、そっちも本物ということか」
「そういうことになるな」
「そんな二人がこうも簡単に俺たちに捕まってしまっていいのか?身代金でも請求させてくれるつもりか?」
幹部の男はロックの目的が想像できていない。
「だから話を聞きに来ただけだって」
「本当に本気なのか?」
「本当に本気だ。俺とルークの二人なら悪いがこの状況からでも切り抜けられるぜ」
それがハッタリなのか自信の表れなのか判断が付かない。ただやるかも知れない、という雰囲気場十分出ている。
「言うねぇ。まあいい、それで本当に何をしに来たんだ?」
「だから何度も言っているだろ、今このレシフェで何が起こっているのかを聞きに来たんだよ。普段ザードファミリーとドランファミリーは諍いなんか起こさない、って聞いたんだが今日揉めている所に出くわしたんだよ」
「今日のことか。おい、何か聞いているか?」
幹部の男が配下に確認する。直ぐに確認された情報が戻ってくる。組織としては機能しているようだ。
「判ったかい?騎士団の人が珍しいって言っていたから、何事何だろうと思って聞きに来た、という訳だよ」
「お前が本当にそう思って来たのは判った。俺はサードファミリーのカロム=ザードだ」
「ザード?ということはファミリーのボスなのか?」
「違う。うちのボスは俺の姉、ルル=ザードだ、俺は幹部ではあるがな」
「ボスは女なのか。でも荒事担当はあんたなんだろ?」
「試してみるか?」
「いずれ、な。それで話してくれる気になったのか?」
「まあいいだろう。ドランに行かずにウチに来た、というところは評価してやろう」
それからカロムはレシフェに起こっている現状について話を始めた。




