第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱②
「大丈夫かい?」
気が付いたらロックが騎士団員の一人に話しかけて手た。
「なんだ、お前は」
「いや、手を妬いてるようなら手伝おうかと」
「手伝いなど要らん、離れていてくれ」
「そう言わないで。大変そうじゃないか」
と言った時にはロックはその場を一人で制圧していた。
「これでいいかい?」
「あっ、まあ、なんだ、いいのはいいが、お前の手を借りなくとも」
「うんうん、そうだな。でも手を掛けなくて楽だったろ?」
騎士団員は何とも言えない表情をしている。場が収まったのはいいが、収めた人間がどこの誰なのか判らないからだ。
「なんで騎士団でもない奴か出張ってきているんだ」
気が付いた時には制圧されていた破落戸共もいったい誰にやられたのかを知りたいようだ。
「お前たちが暴れるからだろ」
「顔を憶えたぞ、夜道には気を付けるんだな」
「あははは、いいよ、いつでもおいで」
ロックは脅しには全く動じていない。この程度どの相手には負ける気がしない。
「おい、お前たちも付いて来い」
騎士団員は暴れていた者たちと一緒にロックとルークも詰所まで付いてくるように言った。ロックたちは拘束されている訳ではないので、普通に付いて行くだけだ。
騎士団員としてはロックの尋常ではない動きを見て、そのまま何も聞かずに帰す訳にも行かなくなってしまった。
一旦破落戸たちを牢屋に入れて騎士団員が詰所に戻って来た。
「それで」
「それで?」
「お前たちは何者だ、ということだ」
「ああ、それね。俺の名前はロック、ロック=レパード。そしてこいつはルーク=ロジック」
「ルークです。で僕たちはどうしてここに連れて来られたんですか?」
二人は何の説明も無く連れて来られた。というか付いて来い、と言われて自ら詰所に来た、というのが正確なところか。
「ロック=レパード、というのは聞いた覚えがあるな。確か去年の御前試合の優勝者の名前と同じだと記憶しているが」
「そのロック=レパードっていうのが俺だよ」
何度も繰り返される自己紹介時のロックの得意げな顔はいつものことだ。
「本当なのだな。それでルーク=ロジックの方は聞いたことはないが」
「ルークはアゼリア公のご子息だよ」
「まさか、狼公に子供は居ない筈だ」
「ご養子様なのだよ」
ここでもロックは自慢げだった。




