第十章 アストラッドの悲劇 レシフェの争乱
「ロスよりも大きな港街だな」
「そりゃアストラッド州の州都だからね。あの大きな建物が多分緑鹿城だよ、ソニーも本当ならあそこに住んでいるはず」
「嫡男だからなぁ。うちより相当大きな家だな。でもルークの家も城じゃないか」
「僕は銀狼城には一度も住んだことないよ」
「落ち着く前に旅に出てしまったからな。いつかヴォルフ伯父と静かに暮らせるといいな」
ロックもルークもそんな時が来るとは思っては居なかった。ロックは特に波乱に満ちた人生を望んで過ごしているからだ。
「あれはなんだ?」
その時ロックが何かを見つけた。ルークが見ると何人かが騒いでいる。騒いでいる男たちが数人、それをどうやら抑えようとしている騎士団員が二人。
「何かあったのかな。ロック、首を突っ込んだらだ」
ルークの言葉の途中で既にロックはその騒ぎを遠巻きに囲んでいる集団のすぐそばに立っていた。
「何があったんだい?」
「ああ、なんでもザードファミリーとドランファミリーの破落戸どもが喧嘩を始めたのを騎士団が止めに入った、ってことらしい」
「ザードファミリーとドランファミリー?」
「レシフェの港を牛耳っている二つのならず者集団さ。まあ騎士団よりよっぽど荒くれ者たちから俺たちを守ってくれているんだがな」
レシフェは州都だが港街特有の荒くれ者が大勢居ることには他の港街と大差ない。その多くを配下に従えているのがザード・ドランの二つのファミリーと言うわけだ。
もっと小さなファミリーや単独の荒くれ者たちの揉め事を収めるのも大きなファミリーの役目だ。ただ騎士団から正式に依頼を受けていると言う訳ではない。
勝手にやっていることだか、市民からするとなかなか動いてくれない騎士団よりも金次第ですぐに駆けつけてくれるファミリーをつい頼ってしまうのだ。
その二大ファミリーの下っ端同士が揉めているらしい。とすると、それを収めるのは同じファミリーの幹部か騎士団、ということになるのだ。
「へぇ、それでそいつらは強いのかい?」
「いやぁ、あの連中はただの下っ端だからザードやドレンといえども大したことはないさ。幹部連中の強さは想像を絶するがね」
「ほう、想像を絶する強さ、か。それならもしかしたら騎士団よりも強いのか?」
「まあな。騎士団なら団長の息子アークなら奴らにも負けないだろうが、他の騎士団員なら太刀打ちできないかもな」
アーク=ライザーの強さは街でも有名らしい。ロックがちょっと眉をひそめる。
「アーク=ライザーか、強いのかい?」
「そりぁアストラッドなら一番だろう。去年の御前試合に出ていたらきっと優勝していただろう」
「それは悪いね、アークが出ていなかったからか優勝は俺だった」
「えっと、それはどういう事だ?」
「どうもこうもないさ、去年の御前試合は俺が優勝した、って言っているんだ」
「ほ、本当に?お前が確かロックとか言うバーノン=レパード聖騎士団副団長の次男」
「おっ、よく知っているな。そうだよ、そのロックが俺だ」
「ロック、揶揄ってないで」
「別にいいじゃないか。で、そこの人、こんないざこざはよくあるのか?」
「そうだな、ちょっと最近は増えてきているように思う。理由はよく知らんがな」
ルークの心配を他所にレシフェに着いて早々に厄介ごとに目を輝かせて首を突っ込もうとしているロックだった。




