第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ⑩
「それで?」
「それで?」
「ジェイを置いて行くのはいいとして、俺たちはこれからどうするんだ?」
元々アストラッド州の州都レシフェを目指していたのだ。その途中の街サイレンで結構な足止めを食ってしまった。
二人はとりあえずサイレンの屋敷ではなく元々泊まっていた宿に戻ると旅支度を整えて次の街へと向かうことにした。
次の街ケベックまでは馬車で3日というところだ。同じように先に旅立ったシェラックとユスティは多分同じ街道を先行している筈だ。いつか追いつくかもしれない。
ケベックはアストラッド中央の中核都市で街の規模はマゼランと変わらない。ただ特に二人はケベックの街には用が無かった。一泊して再び出発する旅の準備を整えて翌日にはケベックを後にした。
「おい、ルーク」
「何です?」
「暇だな」
「暇ですね。でも何事も無く旅が続くのはいいことでだよ」
「何か事件が起こらないと面白くないじゃないか」
危険な目に遭ってもいいから何かが起こって欲しい、ロックの目はそう訴えていたがルークは相手にしなかった。
「いいからロックはちゃんと前見てて」
御者席のロックは後ろを見てルークに話しかけていた。ただロックとしてはそれでもちゃんと真っ直ぐ走らせることが出来る。
ロックの希望は叶わず特に何事も起こらずレシフェの街に着いた。
「とりあえずどこかに宿を取って落ち着くか」
レシフェはロパース河の河口に広がる港街だ。港街としてはレントに次いで大きな街でありアストラッド州の州都でもある。
ソニー=アレスもアーク=ライザーも居ないこの街ではロックもルークも誰一人縁者が居ないことになる。
ロックは何かがあればルークの名前を出そう、とか簡単に考えているがロックの希望通り何かの厄介ごとに巻き込まれてしまったらロックやルークの名前が通用するかどうかは賭けだ。
「さて、着いたはいいが、これからどうする?」
「特に行くところも無いし、暫らく滞在して東を目指そうか」
「一応聞いておくけどプレトリア州まで行く気だよな?」
「そのつもりだけど」
「まあソニーも居ないことだし、ちょっと街を回ってから東へ向かうか」
アストラッド州でのロックの修業やルークの自分探しも進展させる切っ掛けが無い。
「ロックが変なことに巻き込まれなければいいけどね」
「おい、俺が自分から厄介ごとに首を突っ込んでいるとでも言うのか?」
「違った?」
「否定はできないけど自覚はないぞ」
自覚はないんだ、とルークは口には出さないが思った。




