第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ⑨
「ジェイ、いるか?」
(なんじゃ、また厄介ごとでも頼もうと言う魂胆だろう)
「さすがはジェイ、判っているね」
(普段は存在自体を忘れておるのに都合のいい時だけ思い出しおって。それで儂になにをしろと言うのだ)
「話は聞いてたでしょ?」
(まあ、そうだが。なんだ、ここで二人を守れとでもいうつもりか?)
「そのつもりさ」
時の館(と呼ぶことにした)のサイレンとジェニファーを落ち着くまで見守っていて欲しい、というのがジェイへの願いだった。実際、夢のナイヤくらいの魔道士が相手ではジェイでは歯が立たない。だが危険が迫った時、連絡することはできる。その時々で一番いい相手に助けを求めてもらうのだ。
(全く役に立たない場合もあるぞ)
「判っている。危険だと思ったらさっさと逃げて構わない。何かあったら僕かソニーに連絡して欲しい、って事だけ忘れてなければ」
(その程度であればよいが。そもそもサイレンとやらは儂より魔道が使えると見えるが)
「それはそうなんだけどジェニファーを守りながら、ってのがね。ジェイは保険だよ」
(儂がお前たちの旅に必要が無いとでも言うのか?)
「まさか。ジェイにはいつも助けてもらっている。感謝してるよ」
ロックではなくルークに言われるとジェイも納得せざるを得ない。
「ジェイ、俺からも頼む」
ロックも殊勝な態度で頼む。
(お前に頼まれてもな)
「なんだ、聞けないって言うのか?」
(そうは言っておらん。判った、判った。暫らくはここで二人の様子を見ていよう)
「助かるよ」
ルークやソニーは、できれば高位の魔道士に、と思ったが適当な人材に思い当らなかった。出来るだけ早めにジェイに代われる魔道士を置きたいとソニーは考えていた。
勿論サイレンが本来の自らの力を行使することに躊躇いが無ければ十分高位の魔道士ではある。だが彼女はその力を使うことが出来ないだろう。
サイレンの精神を開放する制限解除魔道でもあればいいと思うのだが、そんな便利な魔道はなかった。少なくともソニーやルークの知識には無い。そしてノルン老師は既に居なかった。




