第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ⑧
「ソニーもよく戻ってこれたね」
「ノルン老師から連絡を貰ったからね」
ノルン老師はアークをレイリク鍾乳洞に送り出した後、ソニーにも使い魔を放っていたらしい。
「慌てて戻ったんだ。それにしても妙案を出してくれてありがとうルーク。本当に助かったよ、アークの負担も気になっていたし。それてサイレンのことは母のこともあるし、母を罪人に任せる訳にの行かないから今の彼女を信じて罪は問わないことにする」
「そっちは、逆にありがとう」
サイレンの屋敷はソニー=アレスの別宅として登録し、アストラッド騎士団のサイレン駐屯所の分所として正式に使うことになった。
「ところでさっきサイレンの部屋に入った時ちょっと気になることがあるんですが」
ノルン老師が気になることを言いだした。
「どうしました?」
「ええ、私がサイレンに時を止める魔道を掛け
、今回それを解いたのですが、何か他の魔道士の残滓のような物を感じたのです」
「残滓ですか」
「そうです。私以外の魔道士が関わっている可能性があります。その方法や目的は判りませんが」
ノルン老師が言うにはほんの少し、微量過ぎて殆ど何も判らない程度の他者の魔道の跡がみられるらしい。ルークにはとても感じ取れるものではなかった。
「それはどういうことなのでしょう」
「判りません。ただサイレンが他者の命を奪ってまで若返ろうとした原因に関わることかも知れません」
「それではサイレンは自らの意志で若返ろうとしたわけではないと?」
「その可能性が少しはある、という程度のことですが。そして、その魔道の残滓に私は心当たりがあります」
魔道には癖というか、掛けた魔道士によって違う魔道の跡が残るらしい。これも今のところルークには全く感じられるような事ではなかった。それは魔道士として相当高位でなければ無理なことなのだ。たとえば数字持ちの魔道士のような。
「それば誰のことですか、差し支えなければ教えていただけませんか?」
「別に構いません。私がサイレンにその残滓を感じた魔道士はナイヤ、数字持ちではありませんが夢のナイヤと呼ばれる魔道士です」
ノルン老師によると夢のナイヤはその名の通り他者の夢を操ることを得意とする魔道士らしい。
ナイヤは数字持ち序列第2位風のフレアの弟子で同じく序列11位の海のシレンは兄弟子にあたるらしい。ただシレンと違いナイヤは破門されているので弟子とは名乗れない。
「それは今後問題になる可能性が」
「あるという事です」
サイレンが高位の魔道士であるとはいえ、そのサイレンを操ったナイヤ相手には分が悪い。何らかの対策をしておくことが必要だった。




