第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ⑦
「で?」
「で?」
「何かサイレンと進展はあったのか?」
「進展って何だよ」
「ルークはサイレンが好きなんだろ?」
ロックは完全にルークを揶揄っている。当然ルークも揶揄われていると思っている。
「そうだね、将来を約束して来たよ」
「えっ?」
ロックはルークの言葉に驚いてしまった。そこまで話が進んでいるとは思っていなかったからだ。
「いつかまたここを訪れる、って意味さ」
「なんだ、そう言うことか、驚かせるなよ。それは俺も賛成だ、いつかまたサイレンに会いに来るとしよう」
「ロック」
「なんだ?」
「ありがとう」
「いいさ、貸だ」
「いや、借りではないと思うけど」
丁度そこにアークたちが戻って来た。ソニーも伴っている。全てを報告して了解をしたのだろう。
「ルーク、ありがとう、母を気遣ってくれて」
「ソニー、いいよ、サイレンのこともあってこっちも助かるし」
アークの部隊はレイリク鍾乳洞を引き払い、このサイレンの屋敷の周囲に駐屯地として建物を守ることになった。ノルン老師に調整をお願いしてサイレンたちを守る結界を張った部分とアークの部隊の駐屯する部分に分けてもらった。
氷漬けだったジェニファーは解凍されたが意識は戻らないままだ。サイレンの部屋では時が進まないので、ずっと氷漬けであるよりは随分体への負担が軽減される。
サイレンにはジェニファーの意識が戻るかどうかを監視してもらう。ジェニファーに危害が加えられない様に防御壁にもなってもらう。それがサイレンの罪を減ずる条件になったのだ。
ジェニファーをサイレンの部屋のベッドに寝かせ、ソニーたちが出てきた。
「本当にありがとう、ルーク。これで母のことを守ってもらうことがかなり容易になった。レイリク鍾乳洞ではずっと待機出来ないから交代する時間が短くて大変だったんだ」
アークの部隊に相当な負担を掛けていることについてソニーは申し訳なく思っていた。ここでなら守護も監視も容易だ。
「いいえ、お役に立てて良かった」
「俺からも礼を言う。これで俺自身がある程度は自由に動けるようになった」
それまでアークは自分の部隊の元を離れられなかったのだ。




