第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ⑤
「サイレン、本当にいいのか?」
「いいのです。全て思い出してしまったからには外の世界でのうのうと暮らすことは出ません」
「でも」
「大丈夫です。でも」
「でも?」
「もしまた外に出て、いつかまたここに戻れる時が来たら来てくれますか?」
「それは」
ルークはそこで返答に詰まってしまった。外に出るとサイレンに事は忘れてしまう件は封印時の調整で何とかなりそうだった。
「君のことは決して忘れない。僕はまだまだ旅が続くけれどきっとここに戻ってくると約束記するよ」
「ありがとうございます。嘘でも嬉しい」
「嘘じゃない。それに君にはある役割をお願いしたいと思っているんだ」
「役割ですか?」
それからルークは詳細をサイレンに説明した。サイレンがここで無事に封印され続けるための方便だが、なかなか名案ではないかと思っていた。
「判りました、その役目、お受けいたします。責任を持ってお役目を果たすと誓いましょう」
「ありがとう。君加瀬そう言ってくれると本当に助かる。後は外の皆に了解を得て来るよ」
「ルークさん」
「なんですか?」
「ここから出て、その方をお連れされる時も、この部屋には入らないでくださいませんか?」
「えっ、どうして?」
「ルークさんの顔を見ると決心が揺らいでしまいそうだからです。お願いします」
ルークにはサイレンの気持ちが良し判らなかったが頷くしかなかった。それがサイレンの望みであればルークは叶えるだけだ。
「判りました。でも、いつかまたここを訪れてもいいんですよね?」
「そうですね、ただそれは遠い未来のお話しだと思っています。私に会う必要が生じたときはぜひここをお尋ねください。でも、ルークさんにそんな日が来ないとこをお祈りしております」
相変わらずサイレンに言うことはルークには理解できなかったがまた建物全体を封印し中の時を止める魔道をルークは丁寧に掛けた。ノルン老師の場合とは違い建物から出ても中での記憶は忘れないようにする。
これによって中のサイレンの記憶も封印されないのではないかとルークは考えていた。その方がサイレンにとっては辛いかも知れないがそれはサイレンの望みでもあったからだ。
「話は終わったのか」
外に出るとロックが話しかける。ルークの表情は何か大切な物を失った時の寂しさが現れていた。
「うん、終わった。サイレンをというか建物をもう一度封印してきた。ノルン老師、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
「いいえ、サイレンも喜んでいたでしょう。私もそれで納得しています」
ノルン老師の表情は言葉の通り穏やかでサイレンのことを見守っているかのようだった。




