第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ④
「そうですね、自分のやった事もその後のことも全て思い出しました。ルークさんに封印されるのであれば従いましょう」
サイレンの言葉には敵意や悪意は感じられなかった。
「では何でんなことを」
「それは私を外に出したりしては危険だという事を皆さんにご理解いただくためです」
その言葉にも嘘がなさそうだった。たしかにこの場から逃げるだけならばルークも凍らせてしまえばいいだけだ。
「それは」
「いいのです。私を元に戻してください。今のあなたになら出来ると思います。ノルン師匠ではなくあなたに封印されたい」
その感情はルークにはよく判らなかった。だが確かにノルン老師の解除方法を目の当たりにしてみてルークはその仕組みを十分理解した。今の自分なら再びサイレンを封印することも可能だろう。
実は話の途中でノルン老師が自らサイレンの術を解いて氷の魔道から解放されていた。その上で自ら氷魔道で身体を覆ってサイレンの魔道に掛かったように見せかけていたのだった。
ノルン老師は氷のノルンと呼ばれる数字持ちの魔道士だ、弟子であるサイレンの氷魔道を解くことは容易い。しかしノルンはサイレンとルークの二人に判断をされるため一旦魔道に掛かった振りをしていたのだった。
ノルン老師は一言も発せずにルークを目で誘う。二人で建物の中へ戻れということだ。
「判りました、ではサイレンさん、一度部屋に戻りましょう」
ルークとサイレンは二人だけで元の部屋に戻る。残されたノルン老師たちは直ぐにノルンによって魔道を解除された。そしてノルンから状況を説明された。
「サイレンはなぜそんなことをしたのですか、老師」
「判らないか?彼女は、今目覚めた彼女は自責の念に押しつぶされそうなところをなんとかルーク=ロジックのお陰で気持ちを保っているのです」
「本当なら自死してしまうところだった、ということですか」
「まあそんなところでしょう。何かに取りつかれてしまっていたサイレンは、その何かから解放された今、自らの行為を後悔しているのです」
「だが何人もの命を奪ったことには違いない、その罪は償ってもらう必要があるのではないか?」
師匠と弟子の会話にアークが口を挟む。アストラッド騎士団員としては当然ではある。
「中隊長さん、それはちょっと待っていただきたいのです」
「ノルン老師、知ってしまったからには、なかなかなそう言う訳にも行かないのですが」
「お立場は理解しています。ただ、ルークさんの結論を待って欲しい、と言っているのです。きっと彼はサイレンにとってもあなた達にとってもいい解決策を見つけてくれるでしょう」
何かノルン老師は確信があるようだった。ユスティも頷いている。ユスティにもノルンと同じ回答が見えているのだ。そしてルークがその選択をすることを疑っていない。
「大丈夫だ、アーク。あいつに任せておけばきっと悪いようにはしない筈だ」
ロックも当然ルークの判断に無条件同意をするつもりだった。
アークは仕方なくその場の全員に従うことにした。ルークが出てくるまでそこで待つ、ということに。




