第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ②
「判りました。私もサイレンを未来永劫ここに閉じ込めておく気があった訳ではありません」
ノルン老師は決心したようだ。
「サイレンもそれでよろしいでしょう?」
覚えてはいないとは言え師匠であるノルン老師にそう言われてしまうと逆らえない。
「私は、私にはよく判りません」
サイレンは自分が外に出ていいものなのかどうか判断が付かなかった。
「サイレン、君は外にでてもいいんだよ」
ルークに言われて、最後はサイレンも納得したようだ。
「では、ノルン老師、よろしくお願いします」
ノルン老師が詠唱を始める。炎や氷の魔道とは違い詠唱が複雑で長い。複雑な魔道であることには間違いがなかった。それもノルン老師の魔道力あってこその術式だった。
「はい、これでもう外に出られますよ。サイレン、扉から出てみなさい」
さっきまではサイレンは部屋の扉が開いても何かに阻まれて外へは出られなかった。サイレンが恐る恐る扉を通ってみる。
「あっ」
何の抵抗も無くサイレンは扉の外に出ることが出来た。
「出られました、ルークさん出られましたよ」
本心ではやはり外に出たかったのだろう、サイレンの顔には笑顔があった。
ルークに不安が無かった訳ではない。サイレンがただ若さを求めるためには手段を択ばない人でなしだったら、という懸念は残る。ただ今のサイレンからは、そんな気配は読み取れない。
「出たとこ勝負、ということだな。それでいいのか?」
「気に病んでも仕方ありません。駄目だったらその時はその時です」
ルークは慎重な方だと思っていたのだが案外大胆なところもあるのだな、とロックは思った。
「それは本来俺の役目なんだが。まあいい、それでどうするんだ?」
「どうするとは?」
「彼女をこれからどうするんだ、と言う意味だ」
外に出したのはいいが、サイレンは今から何処で何をすればいいのか。記憶が戻らないこと、万が一戻っても過去の過ちは繰り返さないこと、それを彼女の周辺で見守る必要があるだろう。
「おい、もしかして何も考えてなかったのか?」
ルークにしては抜けている話だった。本来なら二つや三つの提案を用意しているはずだ。それがサイレンに事になるとあまり頭が働かない様子だった。
「まさか」
そう言ったルークの表情は、いつもの表情ではなかった。




