第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅲ
「本当にいいのですか?」
ノルン老師が再確認する。本来全権を委任されてサイレンの対処を決定すべき立場なのはノルン老師なのだ。
「僕の我が儘と取っていただいても結構です。ただサイレンが何か問題を起こしたのなら、その時は僕が全力で対処することをお約束します」
「本人の意向はお聞きいただけないのですか?」
不意にサイレンが割って入った。サイレンはノルン老師を見てから殆ど話せなくなっていた。
「何か意向があるのですか?」
「はい。今までのお話をお聞きしていますと、どうやら私は私自身の所為でここに閉じ込められているようですね。そして、その理由を私は記憶していない。記憶も含めてこの場所に封印されていた、ということでしょう」
サイレンの考察は間違っていない。
「そうだとすると、やはり私はここにこのまま封印され続けないといけないのではないでしょうか?」
理由は判らないが封印されるだけのことを仕出かしたのだ、封印されても仕方ない、ということだ。
「サイレン、でも今の君には何をしたかの記憶は無いんだろ?」
「確かに何の記憶もございません。私の師匠と言われた、そのノルン老師のことも殆ど覚えておりません。確かに何らかの関りがあったことは確かなのですが」
「だったら今の君には何の責任も無いと思うんだ。その君がずっとここに監禁されている事は間違っている」
ルークの考えはかなり強引だ。何かの犯罪を犯しても記憶が無くなれば一切責任が無いと言うのだ。被害を受けた者からすると納得できることではないだろう。
「でも」
サイレンは納得していないようだった。自分がしたことは覚えていないし、どこの誰に迷惑を掛けたのか全く判らないからだ。
実際には多くの命が失われている可能性が高い。その責任は負うべきなのかも知れない。
「やはり私はここに留まるべきだと思います」
サイレンは頑なだった。
「ではこうしたらどうでしょう。彼女の封印はノルン老師に解いてもらう。そしてサイレンは自らの意志でここに留まる。そして出たいと思った時に、個々から出る、ということで」
サイレンは自由意志で建物を出られるようにしておく、ということだ。但し問題はある。
「ルークさん、それは可能ですし私もそれでいいとは思いますが、一度封印を解いてしまうとこの建物の中でも時は流れ出します。永劫の時間を彼女は手放すことになってしまいます」
封印されていたから時間は止まっていたのだ。それが解かれれは当然時間は進む。普通に彼女は歳を取るし腹も減るだろう。
ある程度の物は魔道で取り出すことができるだろうが、それでも限界はある。ずっとこの部屋に居るとすれば、いつか餓死してしまうだろう。
「それが私の定めではないのでしょうか。それであれば私は受け入れざるを得ないでしょう」
封印を解くことで彼女の命を奪う結果になってしまうことは一同の本意ではない。それなら、今のままで放置する方がマシだろう。
「そういう訳にも行きませんよ。みすみす悪戯に命を落とす君を置いては行けません」
一度言い出したらルークも割と頑固だ、とロックは改めて思うのだった。




