第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅱ⑩
「そうだ、とりあえず建物の結界は解きますね」
「建物の結界?」
「この中に入ると中での記憶が外に出た時に無くってしまう結界が張ってあるのです」
どうもサイレンを閉じ込めている結界と記憶を持ち出せない結界は別物らしい。
「それを早く行ってくださいよ、ノルン老師。その結界が解除出来たらこんな手紙を一々書く必要がないじゃないですか」
シェラックの言い分は最もだった。一番先にやるべきことではなかったのか。
「そうですね、失念していました。とりあえず今結界の一部を解除しました。あとはサイレンを閉じ込めている結界だけです」
「じゃあ、気兼ねなく中に入るとしようか」
今度は全員で中に入ることにした。
「帰りなさい」
ルークとサイレンが待つ部屋と一行は戻った。
「で決まりましたか?」
「お前と話してから、ということだ」
「それはちょっと無理では?また外に出るのですか?」
「いや、全てお前に任せる、という意味だ。俺以外の者の意見は知らんがな。但し、お前の意見をちゃんと聞いてから、だ」
「私もルークの意見に従うことでいいですよ」
ノルン老師がそう言ってしまうとシェラックやユスティに反対することは出来ない。
「なんだ、俺に意見は聞いてくれないのか?
唯一の地元関係者アーク=ライザーは不満げに言うが実際には反対していない。考えるのはソニーが居ればソニーに任せっきりなのだ。今はソニーが居ないのでルークに任せることに異論はない。
「お前の意見何て誰も聞いてくれないだろうに」
「おい、ロック。それはお前も同じじゃないのか」
「俺はルークに考えることは任せてあるんだ、お前とは違う」
「俺もソニーに任せているんだから一緒だ」
「ソニーは今居ないじゃないか」
「二人とも、その辺りで。もし本当に僕に任せていただけるのであれば、ノルン老師、サイレンを開放してやってくれませんか?」
「それがルーク、あなたの選択なのですね」
「そうです。今の彼女は何も知りません。例え過去にどんな所業を行って来たとしても今の彼女にはその記憶がありません。自分が自覚していないことで断罪されることは問題があるのではないでしょうか」
ルークの決断はサイレンの開放だった。




