第九章 杜の国 サイレンの魔女Ⅱ⑨
「何か深い事情があるのですね。そしてそれは私には聞かせられないということ」
サイレンは内容は別として立場は完全に理解していた。
「そうですね、仰る通りです。ですから詳しくは聞かないで貰えると助かります」
サイレンは納得できないが仕方ないという表情を見せた。ルークならもしかしたら詰問すれば話してくれるかも知れない、とも思ったのだが、流石にそれは止めておこうと思った。
「なるほどな」
ロックは外で事情を聞いて納得した。確かにそれではサイレン本人には話せない。
「でもそうだとすれば今のサイレンは一度若返った結果ではないのか?」
「そうですね、私の元で修業をしていた頃からは今の姿は変わっています」
それは大勢の犠牲の下にサイレンが今の姿を手に入れたことになる。
「それでは記憶が戻っているかどうかに関わらず彼女を外に出す訳には行かないんじゃないか?」
ロックの疑問も尤もな話だった。
「万が一記憶が戻ってしまったら、また同じことを繰り返してしまうんじゃないかと思うんだが」
「ルークさんはそれを判った上でサイレンを外へ、と思っておられるようですよ」
ロックにはルークの思いが理解できなかった。血のブランの所業はロックと同じように憤慨していたはずだった。同じことをしたサイレンは助けるというのはロックにはあり得ないことだった。
「それと多分血のブラン亡き今、若返りの魔道を使いこなせる魔道士は居ないと思います。今後新たに現れる可能性はありますが」
「サイレンの記憶が戻ったとしても二度と繰り返すことは無い、ということか」
それでもロックは納得か行かなかった。できればルークとちゃんと話をしたかったのだが。
「だが確か血のブランも誰かの指令で動いていた可能性があったんじゃなかったか」
確かに師匠である影のガルドがブランの魔道を封印した者を解除した存在が居たはずだった。ブランが自ら解いたとは考えられないのだ。
「誰かの指令、若しくは誰かに唆されて、と言うわけですか。それがサイレンだと?」
「そう確信が有る訳ではないが多分ブランは実験の結果をサイレンに報告する手はずになっていたんじゃないか?」
一度は成功した若返りの秘術が何かの事情で解けてしまうのか、継続できずに元に戻ってしまうとか、何らかの不具合があったのではないだろうか。その対策として今の状況を作り出したとすれば、もしかするとノルンもグルなのではないか?
ロックの思考は目まぐるしく進化していくが自分でも纏まり切れなかった。やはりルークは話をしたかった。




