第九章 杜の国 サイレンの魔女⑨
「君は?」
「私はアーク=ライザー中隊長の部下でマックス=サイトといいます」
入って来たのはアークの部下だった。ルークはてっきりロック本人が入ってくるのではないかと思っていたので意外ではあったが、誰かを先に入れて出て貰って本当に記憶が亡くなってしまうのか確認する、といったところだろう。
「アークの指示で来たんだね、ありがとう。ここの中の状況は把握してくれている、ということでいいのかな?」
「はい。建物の外にはライザー中隊長とロックさんが待っておられます。私はとりあえず中でルークさんと話をしてすぐに出てくるよう、言い遣ってきております」
やはり彼は一種の実験台になってもらうのだろう。
「判った、では一旦部屋を出てくれるかい。そして屋敷を出る前にこの中のことを憶えていたのなら、もう一度ここに戻って来てほしい。そうでなければ、そのまま屋敷をでてもらって構わないよ」
ルークが確認したかったことは時が止まっているのは、この部屋だけなのか建物全体なのか、ということだ。
「判りました、では出てまいります」
そう言うとマックスはすぐに部屋を出て行った。そして直ぐに戻って来た。
「部屋を出てから建物を出るまでの間は、ここでの記憶は残っていました。まだ建物は出ておりません」
「良く判った、ありがとう。では今度は建物の外まで出てくれればいいよ」
マックスは直ぐに出て行った。そして今度はマックスではない者が入って来た。
「ロック、よく来てくれたね、ありがとう」
「当り前だろう。でもおかしなことになっているもんだな」
「誰か相当高位の魔道士の仕業だと思うんだけどね。それでアークと相談してどんな対処方法を考えてくれたのかな」
「いや、俺はアークを連れてきただけだ。それでお前と交代して外に出て貰って考えてもらうことにしたんだよ」
「まさか、丸投げってこと?」
「そのまさか、さ」
確かにロックとアークの二人はどちらかというと考えるよりも行動に出る方だ。ソニーでも居てくれればよかったのだがガーデニア州に戻ってしまっている。
「あの」
ここで初めてサイレンが口を挟む。話の流れでルークが外に出てロックが残る、という事になりそうなのを心配しているのだ。
「ああ、ごめんね、サイレン。彼は僕の友人でロック=レパードと言って剣の達人なんだ。でも見かけより信用できる男だから心配しないでいいよ」
「見かけより、ってどういう意味だよ」
「君はちょっとぶっきら棒に見えるからね。サイレンには怖く見える、って意味さ」
サイレンは無言で頷いた。
「幼気な少女を怖がらせるんじゃないよ」
「判っているさ。お兄さんとちょっと間待ってような」
ロックがサイレンに話しかけるがサイレンはルークの後ろに隠れてしまった。ロックとの比較なのかサイレンはルークに懐いてしまったようだ。




