第九章 杜の国 サイレンの魔女⑧
「さっき止めてもらった街への雪をもう一度出せるかな?」
ルークの作戦はこうだ。サイレンに雪に乗せてロック宛の手紙を街まで飛ばしてもらう。あとはロック次第だ。何か街で出来ること、若しくはルーロまで戻ってアークに頼るという手もある。
部屋の中の時は止まっているのでルークはずっと待っていても問題はないと思う。
「上手く行きますか?」
「ロックに任せておけば大丈夫だと思う。部屋の外に手紙が届けられるのであれば、僕も読めるからね」
「判りました。では手紙を書いて貰えば飛ばしてみます」
ルークはサイレンの今の状況と最初方法のいくつかを何通か書いて飛ばしてもらった。暫らくはこのまま待つしかない。
ルークは待つ間サイレンの話を聞くことにした。
「一番最初の記憶って何を憶えているのかな」
「一番最初ですか。多分さっき言ったブランという人がここで待つようにといって出て行ったことが覚えている最初の記憶です」
「なるほど。他には?」
「そう言えばもう一人誰かが居た気が」
「もう一人?」
「良く思い出せません」
ブランともう一人。そのもう一人がこの部屋の時を止めた張本人だろうか。時を止める、などと言う行為の魔道であればブランやそれ以上の魔道士の仕業ということになる。数字持ち魔道士やそれに準じるところの魔道士か。
血のブランはその名の通り血を使った魔道を得意としてい。時を止める魔道とはかけ離れている気がする。
ルークの師匠である時のクロークならば或いは可能かも知れない。しかし、この件にクロークが絡んでいるとはルークには思えなかった。
「そうですか。でもそのもう一人というのが鍵かも知れませんね」
ルークも確信があった訳ではないが、そう言うと自分でもやはりそのもう一人が時を止めているんだと思えてきた。
キスエル老師あたりの意見を聞きたい、とは思ったがいずれにしても記憶を持ったままこの部屋を出るか、さっきやったように実情を記載した手紙を外で受け取るしかない。
「そうか」
ルークは突然有ることに気が付いた。時を止めているのではない、ということを。止めているのではなく、この部屋だけゆっくりと気が流れているのだ。そうでないとロックがもしここに来てくれるのなら間髪入れずに来てしまう。ところが実際にはルークの体感で約十分ほどは何も起こっていない。
「程度は判らないけど時は止まっているのではなくゆっくり流れているんだね」
「そうなんですか?」
「多分そうだと思う。そして僕の予想が正しければ、そろそろロックが扉を開けるころ」
ルークの言葉の途中で扉がゆっくり開いた。




