第九章 杜の国 サイレンの魔女④
「で、僕は何をすればいいのてすか?」
「私をこの部屋から連れ出して欲しいのです」
「えっ?実験を手伝うのでは?」
「それはもういいですよ、気まぐれでやっていただけですから。ただ、私をこの部屋から連れ出してくれればそれでだけで大丈夫です」
このサイレンと言う少女は何を言い出すのだろう。ただ連れ出すだけで、ということは自らこの部屋を出られない,という事か?
「それだけでいいのなら、直ぐにでも行きましょう」
ルークは椅子に掛けていたサイレンの手を取った。特に抵抗する訳でも無くサイレンが従う。
「じゃあ行こう」
ルークが入って来た扉をサイレンの手を繋いだままでる。
「あっ」
サイレンと繋いでいたはずの手が解けてしまった。サイレンはまだ室内だ。
「サイレン、どうしました?」
ルークはサイレンが手を放したと思ったのだ。
「どうもしていません。ただてが離れてしまったのです」
これが彼女が部屋から出して欲しい、といった理由か。
「今度は君の方が先に出るんだ」
ルークはサイレンを後ろから押す形で扉を抜けようとする。
「いっ、痛い」
「あ、ごめん」
サイレンがルークに押されて見えない何かとの間で挟まれた形になってしまう。
「君は本当にここから出られないってことなのか?」
「そうです。私は生まれてから一度もこの部屋から出たことがありません」
生まれてからずっと、ということは少なくとも15年くらいは部屋を出ていないことになる。
「他に此処には誰も居なかったのですか?」
「いいえ、色々と入れ代わり立ち代わり来てくれる人はいました。ただ私をここから出してくれた人は誰もいません」
「君以外は入れるし出られるけれど君だけは出られない、ってことか。何か出る方法はないんだろうか」
「それが判ればとっくに出ていますよ」
「それはそうですね。何か部屋を出られない原因なんかは心当たりはないのですか?」
「生まれた時からここに居ますから。あなたの前に人が来たのはもう2年も前になります。結局誰も私のことなど忘れてしまうようです」
サイレンは寂しそうに何かを諦めてしまっている表情を浮かべた。




