第九章 杜の国 サイレンの魔女
ソニー=アレスは単独でガーデニアへと戻って行った。ガルド老師との約束、ということだったがその内容は聞かされなかった。
ルーロの領主ファクナー=サイン子爵はその所業から拘束することとし、アストラッド騎士団としてアーク=ライザー中隊長が指揮する部隊に治安も含めて委ねることなるよう手配された。
レイリク鍾乳洞には部隊の一部を割きレイリク守護部隊としてトレス=ドレス中隊長がその任に着いた。
「根を絶たないと何も変わらないんじゃないか」
アークは過激なことを言う。ソニーとしても同じ意見なのだが相手が相手だ、そう易々《やすやす》と排除する訳にも行かない。
ソニーはくれぐれも自重するようアークに言い聞かせて行ったのが、そんなことを気にするアークでもない。しかしソニーにすれば母親のことを託せるのはアークしか居ないのだ。
「では俺たちも行くとするか」
ロックたちも遅れてルーロの街を出る。アストラッド州の州都レシフェに向かうためだ。ロックたちはソニーの依頼を受けてソニーの父である太守や後妻であるサーシャとその息子パーン(ソニーの弟)の動向を調べる役目を引き受けていた。
レシフェにはソニーが信頼している数名の者が滞在している。その者達の助けを借りて情報を収集して欲しい、若しくはその者たちを助けて欲しいというのがソニーの頼みだった。
ロックたちは街道を東へと進む。とりあえずはケベックという大きな街を目指すのだ。
馬車で二日、ルーロの次の街サイレンに着いた。そこでロックたちは雪に見舞われてしまい数日足止めを喰らってしまった。
「雪なんて珍しいね。こんなに降るのを見たのは初めてだ」
「そうなのか。セイクリッドは割と降ったり積もったりするぞ。レイラの住んでるラースなんて一年の数か月は雪だ」
「そうなんだ、だからあんなにロスの海が見たかったんだね」
「そうかもな。シャロン公国もグロシア州は雪雪雪だけどな」
グロシア州は夏の数か月を除いて一年の殆どが雪に閉ざされているのだ。
「それにしてもいつ発てるんだ、結構積もっているな。ここらでこれほど積もるのは珍しいと思うんだが」
「さっき宿の店主に聞いたら、こんなに積もったのは経験したことが無い、って言ってた。相当珍しいみたいだね」
「付いてないな」
「でもロック、なんだかちょっと可笑しい」
「何がだ?」
「何かが可笑しい。ちょっと街を見て来るよ」
「大丈夫か?一緒に行こうか?」
「大丈夫。一人の方が動きやすいから。夜までに戻るよ」
「もし戻らなければ」
「探さなくてもいいからね」
「どうしてだ?」
「僕の魔道で対処できない事態だという事だからさ。どうも剣だけで切り抜けられるような類のことではなさそうだから」
「なんだよ、俺は役立たずか」
「そうじゃない。ロックの出番じゃない、っとだけさ。君の出番はちゃんと取っておくから」
「判った、任せる。気を付けろよ」
「判ってる、君じゃあるまいし無茶はしないよ」
「それは褒めて」
「無いな」
ルークは笑いながら部屋を出るのだった。




