第九章 杜の国 レイリク鍾乳洞⑩
「俺の子飼いの者たちで固めたうちの中隊の者は信用できるんだが、他の隊の者は全く信用できない状況なんだ」
アークが信用できる者が少ないことはソニーの悩みの種でもあった。騎士団にはソニーの影響力は少ないのだ。
アストラッド州太守とアストラッド州騎士団は蜜月関係と言っても過言ではなかった。
当然騎士団は太守の命に従うべき存在ではある。ただ今の太守であるディーン=アレス侯爵と騎士団長である同じ歳のルネア=ライザー将軍は幼馴染として育っていた。ライザー家は伯爵家でもあり両家は親しかったのだ。
ただディーンとルネアが成長するにつけてお互いの素性も含めて二人の間には敵対心が芽生えて行った。
様々な場面で雌雄を決して来た二人は、どんどん友情が深まいったのだ。
そんな親を見てきたソニーとアークの仲が良くなったのは不思議でもなんでもない事だった。大人しく思慮深いソニーといつも闊達になんにでも挑戦していくアークの正反対な二人は幼いころから親友と呼べる間柄だった。
ソニーの母であるジェニファーの意識を取り戻すため魔道書や魔道具を探す旅に出るとソニーが言い出した時も一緒に付いて行った。氷壁の中にあるジェニファーの身体が狙われているとの情報が入るとすぐにアストラッドに戻ってその守護に付いているのだ。
「アークには苦労を掛けるな、いつも済まない」
「母君のためだ、当り前だろう」
ただ中隊長になったとはいえ、本来騎士団からの指示も無くレイリク鍾乳洞に駐屯しているのは問題になる行動だった。さらにルーロの街の騎士団員を全員ケベックの駐屯地に送り返していたのだ。
ルーロやレイリク鍾乳洞の状況を把握されないためだったのだが、その所為でルーロが無法地帯の様になってしまっていては領主の仕業だったとはいえやはり問題だった。
「なんとかもう少し騎士団の中にも味方を造らないと今後どんどん動きづらくなるな」
「そこはアークにお願いするしかないんだけどな」
「おお、一応そこは立ち回っているぞ。うちの中隊は子飼いの者だけで編成したが、元々我が家に関係していた者にも声を掛けて信用できる者たちを募っているんだ。今はまだ2中隊程度だが集めようとすればいつでも集められるぞ」
「それはありがたいですね。ではやはりルーロの街の駐屯部隊は揃えてもらえると助かります」
そんな内情を自分たちの前で話をしていい物なのか、とルークが心配するほど赤裸々に二人は話している。ただ、このまま、ということではないだろう。
「それと他の者たちは各地の騎士団に入り込んで実情を探って欲しい」
ソニーは太守の嫡男ではあるが何かの要職に就いている訳でも無く動かせる人員は皆無だった。相手は闇ギルドを使ってまで母を殺そうとしているのだ、手段を選んでいる場合ではない。
「それで?」
ロックが問う。
「それで?」
ソニーが応える。
「俺たちに何をして欲しいんだ?」
「ロック、珍しく感がいいじゃないか」
「茶化すなよ、ルーク。ソニーの母上の命が掛かっているんだ」
「茶化すつもりなんてないよ。僕も出来る限りのことをさせてもらう、何をすればいい?」
ソニーが内情を二人に聞かせたのは巻き込むためだが、二人ともそれを判って聞いていたのだ。




