第九章 杜の国 レイリク鍾乳洞④
ロックとルークは14人の騎士団員に取り囲まれている。剣士祭とは違い当然全員が真剣だった。細剣もいれば大剣を持っている者もいる。騎士団員に正式に採用されているのは大剣だ。
対してロックはレイピアとソードの中間の幅の少し特殊な剣を持っていた。切るにも突くにも適しているのと重さも軽すぎず重すぎず、というところだ。
ロックの剣はレパード家に代々伝わっている家宝とも言うべき大剣ではなかった。それは父バーノン=れぱーどから兄ブレインに渡るべきものだからだ。それでヴォルフ=ロジックに頼んで狼公の古くからの知己である刀匠に打ってもらったものだった。
ルークの剣は義父ヴォルフからもらった細剣だった。力のあまりないルークには細剣での速さがものを言うのだ。細剣にはロジック家の狼の紋章が刻まれている。
「ロック」
「判っている」
騎士団員を殺すわけにも行かない。14人全員を無力化しなければならない。多少の怪我は仕方ない、とロックも諦めていた。相手は正規の騎士団員なのだ、ロックと言えどもこの人数を自在にあしらう訳には行かない。
「囲んで一斉に掛かれ」
至極まっとうな命令に騎士団員たちは一斉に襲い掛かる。
騎士団員たちはロック=レパードの名前は知っていたので十分警戒していた。本物だとすれば相当手強い筈なのだ。
もう一人、ルーク=ロジックの名前は皆知らなかった。いや、ロジックの名前は当然知っている。しかし狼公の縁者にルークいう名前を見いだせなかったのだ。ただ万が一、ということもロックが本物であったとしたら考慮しなければならなかった。
騎士団員としても二人に怪我をさせない様に、少なくとも殺してしまわない様に手加減しなければならないと思っていた。
どちらも相手を殺さない、できれば怪我もさせないように気を使いながらの戦いになった。
そのあたりの機微をうまく利用したのはロックたちだった。ロックが相手の剣を落とさせる。それをルークが拾って回り確保する。
14人のうち10人が剣を落とされた時点で騎士団員の一人が戦いを止めた。
「判った、判った。ロック=レパード、君は本物のようだ。ということは、そっちの君もロジックと言う名前は本物なのか?」
「ええ、今はロジックの名前を名乗らせてもらっています。一応アゼリア公の養子ということになっています」
「本当なのだな。ではなぜそんな者たちが子爵を人質になど?」
それから事情を騎士団員に説明した。気が付いた時にはサイン子爵は居なくなっていた。
「判った、私たちの所為でもある、ということか。それは申し訳なかった。ルーロにも団員を派遣してもらおう」
丁度そこに鍾乳洞奥まで行っていた騎士団員が戻って来た。
「何かあったのですか?」
伝令役に状況を説明する。
「そんなことが。判りました。ではお二人を中に連れて行きましょう」
「いいのか?」
「ええ、中隊長に許可は得ています。お二人を中へとお連れしろ、との命令です」
「物分かりがいい隊長さんだな」
「ロック、少し気を付けた方がいいかも」
「なぜ?」
「話が上手く行きすぎる」
「ルークは心配症だな。大丈夫だって、俺たち二人ならな」
そう言うとロックは騎士団員に続いて中に入って行った。仕方なしにルークも続くのだった。




