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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第九章 杜の国 アストラッドへ⑨

 ルーロの街はウラノ街道のケベック側の最初の街になる。アストラッド州の中では北西の端になるがアストラッド州の直轄地ではなくカリスト=サイン子爵が収める領地となっている。


 当代のサイン子爵カリストはただの小物だった。ただ祖先は優秀な者を数多く輩出しシャロン公国建国時には直轄領だったルーロを拝領し今に至る。


「おっ俺はただ領主様に命令されただけだ」


 その男の話はこうだ。宿屋で吹っ掛けた金額をすんなり支払った者を夜に襲う。当然金を持っていると確信してのことだ。領主の命なので当然宿屋の主人もいいなりなのだ。


「なるほど。でどうする?」


「ロックはどうしたい?」


「そうだな、なんだか強い剣士は居そうにないから、このままこいつらを放してやってもいいんだけど」


「そういう訳にも行かないんじゃないかな。また同じことを繰り返しそうだし」


「それもそうか。おい、その領主の屋敷に連れて行ってくれ」


 男たちは自分たちが失敗した事を知られてしまうので領主の屋敷には行きたくない、と言うのだ。


「じゃあ、ここで縛られたまま待っているか?」


 それも嫌だと言う。結局代表で一人だけ連れてあとは宿屋の主人も連れて来て一緒に縛っておくことにした。


「よし、行くか」


 男たちが乗って来た馬車を頂戴して三人で領主の屋敷に向かった。


 深夜の訪問だったが領主の屋敷は馬車をすんなり受け入れてくれた。ただ馬車から降りてきたロックたちをみて護衛たちがざわつき出した


「なんだ、こんな時間に。何かあったのか?」


 騒ぎを聞きつけて領主が出てきた。


「ご領主様、実は」


 男は事情を説明した。ただロックたちの素性は知らないので、ただ強い剣士を襲ってしまって逆に捕えられた、と説明していた。


「それがその二人か。お前たち儂が誰かを判っておるのであろうな」


 領主ファクナー=サイン子爵はただただ存在な男だった。領民たちも慕っている者は無く、ただ恐れていた。そして、今のところアストラッド州騎士団も特に何もしないで放置しているらしい。


「あんたが領主ってことは当然判ってきているよ。でも夜盗の親玉だという事も判っている。自首するかい?もしそうなら太守にとりなしてやってもいいけど」


「太守にとりなす?何を寝ぼけたことを言っておるのだ。お前たちはここで儂に捕まって有り金のこらず儂に置いて行くのだ。それで今日のことは許してやらんでもない。嫌だと言うのであれば、命で支払うのだな」


 領主は物騒なことを言い出した。自分の屋敷だ、配下の者を大勢いる。たった二人で何かできるとは思っても居ない様子だった。


「じゃあ自首もしないし俺たちに害をなすってことでいいか?」


 ロックの目が輝き出す。大暴れする口実を得たのだ。ルークはやれやれと言う表情を浮かべる。ただ二人には追い詰められた、というような切迫感は皆無だった。


「そう言っておるのだが聞こえ何だか?おい、お前たち、この二人を捕まえて地下牢にでも放り込んでおけ」


 そう言い残すとサイン子爵は屋敷に入って行った。室内ではなく広い野外の方がロックたちには都合がよかった。そこには領主の屋敷に詰めている私兵が四十人ほど出てきた。全員ではないが、さすがにこれだけ居れば大丈夫、という人数を揃えたつもりだったのだ。


 ルークは少しだけ気になったことがあった。アストラッド騎士団の姿が街の何処にもなかったことだった。駐留している騎士団は必ずいる筈だったからだ。


「ロック、色々と裏がありそうだよ、気を付けて」


「なんだよ、俺一人でやるのか?」


「邪魔しないって」


「まあ、やれないとは言わないけど」


 そこからはロックの独り舞台だった。ルークは魔道使いだけを気にすれば良かった。

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