第八章 剣士祭 剣士祭Ⅴ⑦
マシュもロックは、その身体からは想像できない程のタフさを備えている。いくら打ち合っても、疲れを見せないし息も上がらない。ずっと続けていられるのだ。
マシュがさらに一段ギアを上げる。マシュにとってはこれが限界だった。ロックはそれに応える。ロックもこれで限界だ。
「楽しい時間も終わる時は終わるんだな」
ロックが呟いた時、試合の決着が付いた。マシュのギアが更に一瞬だけだが上がったのだ。ロックはそれに付いていけなかった。
マシュはロックとの試合によって覚醒したようだ。突然マシュについて行けなくなる。マシュの動きをロックは完全に見失っていた。これは二人に相当の差が出来た証だった。
ロックは見失ってしまうほどのマシュの動きから繰り出された剣を受けきれなかった。そして決着の時を迎えたのだ。
「そこまで、マシュ=クレイオンの勝ち」
今年の剣士祭がクレイオン道場の優勝で幕を閉じた。
「君のお陰だ」
試合後マシュがロックに駆け寄って来た。
「君との試合で僕は一つ高みに登ることが出来た。感謝するよ」
「いや、勝ったお前から感謝されてもな」
「でも君が居なければ僕はこの高みを経験することは出来なかったと思う。だから礼をすることは当たり前のことだ」
「まあいいけど、次は俺が勝つさ」
「うん、そうだね、次は君が勝つかもしれない。でもそう簡単には行かないと覚悟しておいてくれ」
それだけ言うとマシュは一礼して去って行った。
「なんだったんだ」
「マシュは心から君に感謝しているんだよ」
「そうなのか?」
「君たちのようなレベルでの試合はマゼランでもなかなか組めないんだろうと思う。例えばマゼランの三騎竜となら可能かも知れないけど。そのレベルでの試合、それも剣士祭の本選決勝の大将戦ともなると、この経験は何にも勝るだろうしね」
「まあ、確かに殿しかったけどな」
「そのお陰で彼は覚醒した、とでも言うべき成長を、この一試合で成せたということさ、そりゃ感謝もするだろう」
「確かに最後のあいつの動きはとんでもなかった。たの高みに俺も述べれるのかな」
「君なら出来るさ。というより君にしか登れない高みがあると思うよ。その為の今日の一敗だと思う。大きいよ、この一敗は。これで成長しないなんてあり得ないよ」
ルークは心からそう思っていた。マシュは今回覚醒を経験しただろうが、どちらかと言えばロックの方がより高い所への足掛かりを得たんじゃないかと思う。
「さあ、道場へ帰ろう」
負けたロックが一番元気だ。一行は道場へと戻る。ロックを初め皆は意気揚々と帰路に就いたのだった。




