第八章 剣士祭 剣士祭Ⅴ
そしてついに剣士祭本選決勝が始まる。クレイオン道場の周りには入れなかった人々が何重にも取り囲んでいる。関心の高さを物語っていた。
「剣士祭本選決勝クレイオン道場対ローカス道場を始める」
審判の宣誓により試合会場にクレイオン道場の五人とローカス道場の五人が入って来た。どちらも緊張している様子だか、よりローカス道場の特に二人が緊張しているようだ。
「先鋒戦クレイオン道場ウルム=アロア対ローカス道場マコト=シンドウ、始め」
マコトは本選に入ってからまだ一度も勝っていない。マコトが弱い訳ではない、相手が強いのだ。
ウルムは何でもできるタイプの剣士だった。対応力がずば抜けている。マコトの打ち込む剣も難なく捌いて行く。フェイントを入れても全く動じない。
マコトも相手が格上だと判っているので様子見などしない。今出来る限りの力で休まず打ち込み続ける。体力は相当付いてきているはずだ。但しウルムの方が一回り大きい。持久力でもウルムの方が勝っているのだ。
それでも関係なくマコトは打ち込み続ける。動けなくなるまで続けるつもりだ。そこに何か取っ掛かりができるかも知れない、とすら思っていない。ただ休むことなく打ち込み続ける。
いつまでも続くマコトの打ち込みを苦も無くウルムが捌いてはいるが、ウルムの方から仕掛けることが出来ないでいた。
「マコト、そのままでいい、突っ走れ」
アクシズが激を飛ばす。アクシズはマコトが勝てるとは思っていないが一泡吹かせることはできるかも知れないとは思っていた。
「マコトはいつまで持つかな」
「そろそろ限界かもな」
マコトの打ち込みはフェイントも所々に入れつつ速さも緩急を付けているのでウルムも対応が大変だった。だからそこ反撃が出来ないでいるのだ。ただウルムにはまだ余裕がある。マコトが疲れるのを待っているのだ。それからでも十分決着を付けることが出来ると考えている。そしてそれは間違いではない。
「少しマコトの動きが悪くなってきたんじゃないか?」
ロックが指摘する通りマコトの剣速は徐々に遅くなりつつあった。それが態とではないので逆にウルムの反応も悪くなってきている。
「体力的にはもう限界を超えているようだな」
マコトは限界を超えて動き続けている。今日、この試合で終わるのだ、この後のことは考えなくていい。
マコトの限界を超えた動きに対してもウルムは対応し続けている。少しづつ余裕が無くなって来てはいるが、まだまだ対応が可能だった。
「ああ」
口から迸る叫びを残していきなりマコトが倒れ込んだ。突然限界が訪れたのだ。
「そこまで、ウルム=アロアの勝ち」
マコトは倒れ込んだまま動けない。控えて挨拶をしなければならないのだが息も荒く全く身動き出来なかった。
「申し訳ない」
アクシズが肩を貸してマコトを立たせ、ローカス道場側に連れ戻した。
「よく頑張った、強くなったな」
「負けるって悔しいもんだな。俺は負けてばかりだ」
「全部勝つなんて無理な話だ。負けることで次に繋がる。そして強くなって次は勝てばいい」
マコトも言われなくても判っている。真剣に修行する決意を固めていた。クスイーもアクシズもルークやロックも全部超えてやる、と心の中で誓うマコトだった。




