第八章 剣士祭 剣士祭Ⅳ⑨
「決勝が終われば、そこまででいいんだな?」
「悪いね、アクシズ。ロックやルークの本性と実力をちゃんと把握しておきたかったから君に付き合ってもらったんだが、どうだった?」
「ロックはただの剣士ですね。強いことは間違いありませんが剣の他にはあまり興味がないようです。多分あなたも思っておられた通りの男です」
「まあ、ロックはそうか。裏は無さそうだものな」
「ありませんね。奴の頭の中には強くなることしかありません。ただ、それが飛んでもなく強い、ということでしょう」
アクシズはローカス道場に居ない時はほぼソニー=アレスの元に居た。ルークねそれが判っているのであまり心配してはいないのだ。
「ルークの方はよく判りません。確かに昔の記憶は無いようです。何回かカマを掛けてみましたが全く反応はありませんでした。本当に記憶を無くしているようです」
「そうか。やはり問題はルークの方だね。二人を仲間にするかどちらか一人を取り込むか。いずれにしても敵対することは良作ではない、ということか」
「個人としての二人は、二人とも脅威でしょう。ただ組織として相対するのであれば如何様にでも対策はあると思いますが」
「ロックやルークと戦いたい、ってこと?」
「いいえ、個人的に戦いたいとは思っていませんよ。それは私の望みではないことを、よくご存じだと思いますが」
「判った、悪いね、少し意地悪を言った。ただ特にルークはアレス家の後ろ盾が得られなかった場合の僕と遜色ないと思うのだが」
「彼はロジック家を巻き込む様な事はしないでしょう。ということは私の協力者としてロジック家を巻き込めないことは確実、ということです」
「アレス家も、どこまで当てになるかは判らないよ」
「ソニー様は今のところは歴としたアレス家の嫡男でしょう」
「継ぐつもりはないんだけどな。パーンがもう少ししっかりしてくれればいつでも次期太守の地位を譲るつもりなんだ」
「それは待っていただくお約束です」
「判っているよ、君の願いも」
ソニーとアクシズの会話は、誰かに聞かれているかも知れないことを考慮してあまり確信を突いたようなことは言わないことになっている。
「盗み聞きは感心せぬの」
ルークはジェイから直接報告を聞くためにソニーの部屋の傍まで来ていた。直接中の会話を聞いていた訳ではないが、ジェイに中継してもらっていたので盗み聞きには違いない。
「これは老師。ソニー=アレスの後見人、という感じのお方ですか?」
「ほう、驚かんのだな。儂の名はガルド、人は影のガルドと呼ぶ」
「ガルド老師、失礼をしました。僕はルーク、ルーク=ロジックといいます」
「ロジックとな。狼公の縁者の者とでもいうのか?」
「一応養子ということになっています」
「ほほう、そういうことか。まあよい、お主がソニーの邪魔をするというのであれば儂はお主に敵対することになる、それだけを憶えておいてくれればな。今日のところはこのまま帰るといい、明日の本選決勝もあるのであろう」
「判りました、ありがとうございます。ソニーには改めてお礼に伺うとしましょう」
実は冷や汗をかきながらルークはローカス道場に戻るのだった。




