第1章 虹 流星
第1章 虹
2 流星
シャロン公国の北方と中央の境に座し、世界の屋根とも呼
ばれているロゼ山脈の中でも一際高く聳えるアローラ山のほ
ぼ中腹にその村はあった。村の名はノクス。この村に行こう
とする者は、まずカウル山脈のウラノまで登り、更にトーア
まで出て、北へ北へと山麓を進まなければならない。道はあ
ることはあるが、不慣れな者が決して登れる道ではなかっ
た。
先代の村長が昨年老齢で逝き、その後を継いでまだ三十歳
になったばかりのロームが新しいい村長となった。
ロームが若くして村長となったことには、相応の訳があっ
た。彼は今彼の前で夜空を見上げ、満天の星を見つめている
老人に好かれているのだった。そしてこの村での村長たる条
件とはただそれだけだったのだ。
老人はただ星を見つめている。それがロームには世界の総
ての様相を見通しているかの様に見えるのは決して過大評価
だとは思わなかった。
そのロームから見ても老人は決して年齢を判別させない何
かを秘めているようだった。彼は天界の塔とも呼ばれるアロ
ーラ山の中腹のノクスに数百年前から住んでいると伝えられ
ている魔道師でオーガと呼ばれていたが本当の名前かどうか
誰も知らなかった。
「ロームよ見るがいい、星が流れて行くわ。」
「吉兆でございましょうか、老師。」
「このわしにも解けない星があるものよ。」
オーガはそう云いながらも必死でその流れ星の相を読み取
ろうとしていた。
その時流れていた星は一瞬輝きを増したかと思うと、幾つ
かに分かれまるでシャロン全土を覆うようにして飛び去っ
た。
「7つ、そうか7つに分かれたのか。」
そのままオーガは考え込んでしまった。こうなると1週間
でも身動き一つしないことをもう数回目の当たりにしている
ロームは仕方なしに自分の家へと帰るのだった。