第7章 マゼランの三騎竜 ローカス道場Ⅲ⑨
「もしかしたら師範がお戻りになられたんでは」
塾頭と名乗った男はロックの前から慌てて外に出て行った。構えていたロックは拍子抜けしてしまう。とりあえずマコトだ。
「おい、まだ道場破りをやっていたのか」
問われているマコトは外方を向いていて応えない。
「返事くらいしろよ。命を落としかねないところだったんだぞ」
「それは確かにそうだが。誰も助けてくれとは言っていない」
やっと口を利いたマコトはか細い声でそう言った。マコトの本当の目的からするとここで死ぬわけには行かない、ということじゃないかとルークは思う。マコトの理由はなんとなくは予想が付いていた。
「で、ここにも居なかったの?」
マコトは驚いた風だったが、少し考えて応える。
「いや、まだ塾頭しか見ていないから判らない」
「なんだよ、誰かを探しているって、いったい誰を探しているんだ?」
もうこれ以上は隠せないと観念したのか、マコトは少しづつ話始める。
「俺の父親はマゼランで道場をやっていたんだ。小さいかそこそこ強い道場だった。それは俺の父親一人の強さだったんだが、ローカス道場と同じで父親が襲われて命を奪われてしまったんだ。もしかしたら同じ奴の仕業かも知れない」
「それ、クスイーには言ったのか?」
「いや、言ってない。あいつは復讐なんて思っていない様子だったからな。同じ境遇だと聞いていたらローカス道場に道場破りには行かなかったがな」
クスイーの父は命は助かったが二度と試合ができない体になって道場が廃れてしまった。マコトの父は命を落とした。道場も完全に潰れてしまっていた。
「その犯人を捜していたのか」
「そうだ。手掛かりはその時落としていった手拭いがあるだけなんだ。それには紋が入っている。その紋が入った手拭いを持った奴が犯人の一人だと思っている。あと、うちの道場の名を出せば動揺するかもしれないと道場や強い剣士を隈なく回って探していたんだ。うちの父を殺せるほどの腕の奴、若しくは大勢で襲ったのかも知れない。犯人だと決めつける証拠は少なかったが、お前たちにそんなことに関わらせる訳には行かないだろう」
マコトにはマコトの考えがあるのだ。それをとやかく言えるわけではない。ただ、やはり仲間としては話して欲しかったし頼って欲しかった。それはロックとルークの共通認識だった。
「理由は判った。そんな面白そうなことは手伝うにきまっているだろ。任せろよ」
面白そうなとこ、というのはロックの照れているところだろうが、少し不謹慎ではある。
「面白そうとはちょっと問題だけど、僕も手伝うしクスイーも事情を話せば手伝ってくれるよ。アクシズだって今日も来てくれているんだから。そうだ、表で騒ぎか起こっていたみたいだけど大丈夫かな」
三人は慌てて表に出た。そこには大勢に囲まれたクスイーとアクシズが居た。怪我はしていないようだ。塾生が何人か倒れている。クスイーは別だがアクシズがそのあたりの奴らに引けを取る心配はない。
「大丈夫か、アクシズ」
「やっと出てきたか。数が多い、助けろ。クスイーは数に入れていいぞ」
アクシズは途中まではクスイーを庇いながら戦っていた。クスイーが役に立たないことを自覚し始めた時、アクシズの隙を狙って後ろからクスイーに切り掛かった塾生が居た。
「あ、」
アクシズが気づいた時にはクスイーが切られていた。切られたと思った。
「ううっ」
倒れたのはクスイーに切り掛かった塾生だった。クスイーがちゃんと相手に合わせて切り掛かって来た剣を止め、逆に払ったのだ。
「おい、今」
「はい、出来ました、出来ましたよ」
クスイーは初めてちゃんと相手の剣を受けられたのだ。ローカス道場ではロックやアクシズに稽古を付けられていた時は一度も相手の剣を受けられたことが無かった。
「真剣で稽古じゃなく本番なら出来る、ってことか。まあいい、その調子で蹴散らすぞ」
そのアクシズの合図でクスイーは塾生の相手を次々と熟して行った。身体が面白いように動く。アクシズの稽古は適格だった。それが十二分に身体に叩き込まれているのだ。
そこにある一行が戻って来た。どうやらその道場の師範たちのようだった。




