第7章 マゼランの三騎竜 ローカス道場Ⅲ④
ロックたちは直接マコトから聞き出せないので、とりあえずジェイをずっと張り付かせることにした。
数日は特に何も動きが無かった。道場を出ると宿に戻るだけだ。
「クスイーはあの調子で大丈夫なのか?」
自分の修行をさておいてマコトが心配する。
「どうしても技に気が行ってしまうと剣の速さが半減してしまう。半減以下だな。超一流が並の三流以下になる、という感じだ。あと1か月、中々骨が折れる。マコトは他人のことを心配している場合じゃないだろう。ロックから1本取れたのか?」
「あいつは怪物だって。奴とやってても自信を無くすだけだ。結構いい試合してたあんたや殆ど互角だったルークとも俺は太刀打ちできない。足を引っ張るだけで申し訳ないと思っているんだ。」
「殊勝なことだな。でもお前も卑下するような腕じゃない、あいつらが特別なんだよ。街の道場なら十分塾頭になれると思うぞ。」
「それじゃ駄目なんだ。」
「ん?駄目ってなんだ?」
「いや、こっちの話だ。そろそろ宿にもどるよ。」
マコトは今日も自分宿に戻って行く。ぶつぶつ言いながらジェイもついて行く。マコトに魔道の素養は無いので気づかれる心配はない。前回ルークも魔道を使っていれば見つからなかっただろうが付けているとは思わないだろうと少し甘く見ていたのだった。
その日はマコトは前に行った地下闘技場のある店に立ち寄るようだった。前回はジェイも上手くマコトの言動を把握できなかったので張り切っている。マコトの目的を掴むのだ。
マコトは店に入るとやはり直ぐに地下に降りて行った。そして誰彼となく話しかけている。
「おい、あんた、こんな感じの奴を見たことないか?」
マコトは誰かを探している。似顔絵のような物を持って聞いているところをみると名前や素性は判らない誰かを探しているのだろう。
結局マコトは何人も何人も同じ質問をして誰からも有効な情報を得られずに店を出た。前回も同じようなことだったのだろう。
気落ちしたまま帰路に就くマコトを見送ってジェイはローカス道場に戻った。
(人探しをしている、という確認にしかならなかったぞ。)
「ジェイ、お疲れ様。誰を探しているか、というのは?」
(うむ、何か似顔絵のような物を持っておったが。あ奴もそれ以上の情報が無い状態での聞き込みの様だったな。あれで探すのは中々難しいのではないか。)
「そうだね。でもあの場所で聞き込んでいるということは、それなりに事前の情報を得てのことなんじゃないかな。」
「出場している方か賭けに来ている方か、どっちかに可能性があるんだろうな。道場破りもその一環か。」
「だろうね。道場破りをしていたことからすると剣士の方の可能性が高いかな。」
道場破りとして色んな道場を回って見つからなかったので地下闘技場に行きついた、というところか。ロックとは多分別の理由で強い奴を探していたのだ。
道場破りに行くと多分2番手か3番手が出てくる。いきなり一番強い者が出たりはしないものだ。万が一負けた時のいい訳にもなる。マコトからすると探している上位の剣士の顔を確認したかっただけなのだ。そしてそれなりの腕じゃなければ上位の者は出てこない。マコトは強くならざるを得なかった。
「やっぱり本人に誰を探しているのか、探している理由は何なのか聞くしかないね。問題を解決して修行に身を入れてもらうためにも。」
「それはとても大切なことだ。ルーク、任せる。」
堂々巡りの末、そう結論付けて二人は床に付いた。




