第7章 マゼランの三騎竜 ローカス道場Ⅲ②
いつまで待ってもジェイは出てこない。勿論マコトも出てこなかった。1時間、2時間と夜も更けてきたがどちらも出てこない。そのうち、店員らしき人が出てきた。ルークは思い切って声を掛けてみた。
「すいません、店にもうお客さんはいませんか?」
怪訝そうに眉を曲げながら店員らしき男が応える。
「今日はほとんど客なんて来ていませんよ。何ですか、あなたは。」
「そうでしたか、さっき知り合いが入っていくのを見かけたものですから。」
「さっきって、ああ、少し前になら一人入って来て、裏口から直ぐに出て行きましたよ。誰かに追われている風だったので通しましたが、あなただったんですか?彼、何かしたんですか?」
「追ってはいないのですが。同じ道場の者なんです。」
「そうでしたか。でも何だか逃げているようでしたよ。あなたからじゃないのかな。」
「違うでしょうね。彼はよく店に来るんですか?」
「いや、初めて見た顔でしたよ。」
店員の話が本当だとしたらマコトはルークが後を付けていることに気づいて撒いたことになる。それほど敏感には見えなかったが、自分の尾行が下手だったのか。
いずれにしてもジェイが戻らない。裏口から出たマコトをそのまま追いかけたのだろうか。
ルークはそこから何処にも行けなかったので道場に戻ることにした。ジェイはいつか戻るだろう。
「どうだった?」
戻るとロックが待っていた。
「撒かれてしまったよ。ジェイが多分そのまま付いてくれているとは思うんだけど。」
「ルークを撒くなんて、マコトもなかなかやるなぁ。」
「感心するところじゃないよ。でも確かに撒かれるとは思ってなかった。焼が回ったかな。」
「尾行の専門家でもないんだから仕方ないさ。でも撒いたってことは後ろ暗いことがある、ってことだよな。」
「そういう事になるかも知れないね。」
何か隠れて良からぬ事をしているのだろうか。犯罪でなければいいのだが、ロックの心配はマコトが剣士祭に出られないことだけだった。人間性は関係ない。
「とりあえず剣士祭にさえ出てくれれば何でもいいさ。」
ロックならそう言うだろう、と思った通りのことを言う。判り易すぎる。ルークはやはり不安だった。
ロックの為にもマコトには何も問題を起こさずに剣士祭に出て欲しい。そのためにもちゃんと普段の行動を把握しておかないといけない。何かを隠しているのは間違いないがそれがどんな内容なのかによる。一度尾行を撒かれているので次は相当難しそうだった。
深夜、やっとジェイが戻って来た。
(我を放って帰ったな。)
「ごめん、ごめん。いつまで経っても店から出てこないから。店員に聞いたら直ぐに裏口から出たみたいだね。」
(いや、違うぞ。やつは地下への階段を降っていったのだ。)
「えっ、店員はすぐに出たって言っていたのに。あいつ騙したのか。」
(ロックもだがお前も他人を信用し過ぎるところがあるな。気を付けないと騙され放題だぞ。)
「騙され放題っていう表現もどうかとも思うけどね。それで地下でマコトは何をしていたのかな?」
それからのジェイの話はマコトの人となりを理解するのに十分な内容だった。




