第7章 マゼランの三騎竜 ローカス道場Ⅱ⑨
翌日、朝から出かけていたルークがクリフ=アキューズの居場所を掴んできた。今日はガーデニア州騎士団傘下のゲイル道場に居るらしいとのことだ。
「行くの?」
「行くさ。少なくとも三騎竜はこの目で見ておきたいからな。」
揉め事にならなければいいが、と思いつつルークはロックを案内することにした。
「三騎竜を見て来るから後を頼む。」
クスイーとマコトのことをアクシズに頼んで二人はゲイル道場へと向かった。
ガーデニア州傘下の道場なのでグロウスの名前も使えるのかもしれないが、とりあえず二人は正面から見学を申し込んだ。
「ローカス道場の者だと?潰れたんじゃなかったのか、あそこは。まあいい、入塾希望じゃない見学は断っている。帰ってくれ。」
割とどこの道場でも同じ対応が多かったので、想定内の反応だ。
「そう言わずに見学だけでもお願いしますよ。俺の名前はロック=レパード、こいつはルーク=ロジックといいます。怪しい者じゃありません。」
「レパード?聖都騎士団のレパード副団長の関係者か?それにロジックだと?まさか、アゼリア公は関係ないだろうな。」
「両方ともあたりです。ロックはバーノン=レパード聖都騎士団副団長の御子息です。それと今年の御前試合の優勝者でもあります。」
「それにルークはお察しの通りアゼリア州太守ヴォルフ=ロジック狼公の養子だよ。」
「お前たち、そんな名前を出して偽物だったら大問題だぞ。」
「グロウス先輩に確認してもらっても大丈夫だよ。」
「グロウス先輩、ってグロウス=クレイ大隊長のことか。」
「そうそう、セイクリッドの青年学校で一つ上にグロウス先輩が居て、最近までエンセナーダの屋敷に世話になっていたんだ。」
これは本当だったらマズいことらならないか、と応対に出た男は、ちょっと待て、と言い残して直ぐに奥に入って行った。
道場ではロックたちのやり取りに、本当は興味はあるのだが、それを悟られまいと練習に専念している風の塾生が大勢いた。その中に一人、勿論教える立場なのだが飛びぬけて腕が立つ剣士がいる。多分この人かクリフで間違いない。
「ルーク、見たか?」
ルークもその人をずっと目で追っていた。相手は本当にこちらに興味が無いように格下の者に稽古を付けている。それが本当に巧い。師範としても一流の様だった。
奥から威厳が服を着ているかのような、尊大な態度の初老の男が現れた。
「ロックくんとルークくんと言ったか、ゲイル道場にようこそ。私は当道場の道場主グラディウス=ゲイルと言う。よろしく。」
グラディウスは笑顔で、まずロックに握手を求めて手を差し出した。ロックが差し出す手の関節を決めに来る。それを躱してロックは普通に握手をした。
「怖い人だね。関節決められたら、そのまま拘束でもするつもりだった?」
「はっはっは、若い若い。強い強い。そっちのもう一人もなかなか強そうだわ。グランデル。」
グラディウスは練習をしている中の一人を呼んだ。目立たなかったので、ただの練習生だとしか見えない男だった。
「どうしました、父上。」
グラディウスの息子らしい。それにしては特徴もなく、とても強いとは見えなかった。
「うとの師範代のグランデルじゃ。グランデル、こちらはロック=レパードとルーク=ロジックと仰る。気が済むまで見学してもらえ。」
「良いのですか?」
「グロウス様の知り合いでもあるそうじゃ、無碍にもできんわ。なんならお前が練習相手になっても構わんぞ?」
そう言われてグランデルはぎょっとした。自分の強さは自分でよく判っている。父には遠く及ばないことも。師範代とは名ばかりで実際には今日の様にクリフ=アキューズに来てもらって稽古を付けてもらうことが多い。三騎竜の中でもクリフは一番若いが、決して強くはない師範代のグランデルを見下したりしないので接しやすかった。他の二人は性格も強かったのだ。
「私がなんてとんでもありません。この方たちも望んではおられないでしょう。よければクリフの指導を見て行ってください。」
そう言うとグランデルは二人をクリフの元に連れて行った。




