第7章 マゼランの三騎竜 剣の道⑤
「私は当道場の師範代ですから、他の道場の方とは基本的には立ち合いません。年に一回のマゼラン剣士祭で道場対抗の試合があるとき以外はね。うちは去年優勝させていただきました。」
ロックの眼が輝いた。剣士祭、なんていい響きなのだろう。
「そうなんだ。ではここじゃなくて別の道場から出て君と試合うことにしようかな。」
マシュは少し慌てた。ロックに別の道場に入られてはうかうかと強敵を作ることになってしまう。
「いや、私と立合うならこの道場でいいのではないですか?」
「ルークと一緒に入れないなら、その選択はないな。ありがとう、いいことを聞いた。」
ロックは呆気に取られているマシュを残してさっさと歩き出してしまった。
「ロック、よかったのかい?なんだか入門して欲しそうだったけど。」
「いいさ、あいつとは同門じゃなくて敵として真剣に試合いたい、それほどの腕だと見込んでのことだ。」
ロックは徹底している。剣を交えるなら真剣がいい、とすら思っているのだ。剣士祭というくらいだから真剣はないだろうが木刀でもちゃんと熱の入った試合がしたい。御前試合は真剣だったからロックはとても嬉しかったのだ。
「しまった、三騎竜が居たのかどうか確認するのを忘れた。」
一人、かなりの腕と見える師範か師範代のような人がいたのは確かだ。あの人が三騎竜の一人だったのかも知れない。今となっては戻って確かめる訳にも行かないが。
「聖都騎士団や各州の御用達道場は俺とルークが一緒に入ることは出来なさそうだな。誰でも入れる自由道場を探そう。」
結局手当たり次第に道場を見学させてもらう元の状況に戻ってしまった。但し、剣士祭に出場できるくらいの道場、という限定付きだ。聞くと、あまりの弱小道場には出場資格がないらしい。団体戦があるので最低でも五人は強い剣士が必要だ。ロックとルークは別とすると後は三人強い剣士が揃っている道場が望ましい。
ロックは剣士祭でクレイオン道場に勝てる道場を探すつもりでいた。
「ロック、もしかして優勝するつもり?」
「もちろん。剣士祭は二か月後みたいだから十分間に合う。」
誰の基準で十分と言うのだろう、とルークは思ったが言い出したら聞かないロックなので諦めている。それならやはり早く道場を決めないと、間に合わなくなってしまう。
「今度はここにしよう。」
ロックは少し小さい道場を選んだ。それまでは大きな道場ばかり探していたのだったが、どうもロックとしてはシックリこない気がしていた。小さい道場にも強い剣士が居るかもしれない、と思ったのだ。ただ、強い剣士が居る道場は必然的に人が多く集まり大きな道場になる、というのが普通だろうから、あまり期待はできないんじゃないかとルークは思っていた。
「ルーク。」
道場に入るなりロックがルークを呼んだ。
「みろよ、あの人。」
そこには一人の剣士が木刀を振るっていた。道場には他に人は居なかった。何度も何度も上段から木刀を振り落とす。その速さが半端なかった。常人には木刀が消えたように見えるだろう。上段で構えた木刀がいきなり正面に現れるのた。ルークでは目で追うのがやっとだった。ロックにはちゃんと見えているようだ。ミロには全く何をやっているのか判らなかった。
「ここにしよう。」
他に何も見ず、何も聞かないでロックは入門する道場を決めてしまった。入門を断られる事は考えていないのだ。
道場には『ローカス自由道場』と達筆だか誰にでも読める優しい字で書かれていた。




