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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第2章 アゼリアの狼 新たなる旅立ち③

第2章 アゼリアの狼


2 新たなる旅立ち③


「なんでもマゼランにお立ち寄りになってお

られたとか。」


 侍従が説明をしてくれた。


「まぁ、マゼランにどんなご用事があったの

かしら。確か、ヴォルフ公の弟は剣術のこと

なんかには興味はないって聞いてたけれ

ど。」


 クォレル=ロジックが男色に耽っているこ

とは周知の事実だった。レイラ=イクスプロ

ウドはアドニスに着いたときクォレルの不在

を聞いて嬉しかったものだ。顔を遭わせたこ

とは無かったのだか、他にも良い噂を聞かな

かったからだ。


「マゼランはどんなところなんですか。」


 ルーク=ロジックは記憶を無くしている。

自分自身を見出すための鍵の一つとしてヴォ

ルフ=ロジックに遭いに来てヴォルフを助け

ることになった。そして、ルーク=ロジック

という名前とヴォルフの息子と同様という身

分を得たのだった。しかし、それで記憶が戻

った訳ではない。ルークには観る物、聞くも

のが総て興味を引くものだった。


「マゼランというのはちょっと変わった街よ。

街の中心が聖都騎士団の訓練施設になってい

るの。各州の騎士団の幹部もそこで修行する

慣わしになっているわ。その訓練施設の周り

に広がった街なのよ。」


「ロックさんもそこで修行したんですか

ね。」


「いいえ、ロックはまだどの騎士団にも属し

ていないもの。でもお父様が聖都騎士団の副

団長でお兄様も聖都騎士団に入られたって聞

いているから、多分ロックも聖都騎士団に入

るんじゃないかしら。」


「そうですか、彼は相当な使い手ですから、

騎士団でも重用されるでしょうね。」


 ルークとレイラ、レイラの侍女フローリア

は銀狼城の誇る南方独特の花が咲き乱れる庭

園で暫しの会話を楽しんでいた。


「どうも虫が好かないんですよ。老公には身

内を悪く言われたくはないと思いますけれ

ど。」


「そう言うでない。儂も判って居るのだ。ク

ォレルのあれは病気のようなものだと諦めな

いと仕方が無い。」


 ロックは御前試合に出るまで、ヴォルフの

元で修行していたときにクォレルに寝室にま

で押しかけられ迫られたことがあった。武術

家としてもかなりの腕前のロックにとって、

ぶよぶよと太ってしまったクォレルの体をか

わすことなど造作も無いことだが、クォレル

は勢い余って壁に激突し、気を失ってしまっ

た。ロックは直ぐに侍従を呼んでクォレルを

自室に運ばせたのだが、翌朝クォレルは何事

も無かったかのようにロックに朝の挨拶をし

たのだった。不名誉なことなので自ら言い出

す筈も無いのだが、ロックとしては何らかの

因縁をつけて追い出されるかとも心配したの

だがその後は殆ど口をきかないで出立の日を

迎えられた。


「しかし、ヴォルフ公、クォレルさまの側付

きの者たちは、公のお許しを得られるのなら

お暇を頂きたいと申しておるものが大勢居る

ことは確かでございます。一度公からお諭し

いただけませんでしょうか。」


 クォレルは自分の命令が即実行されないと

不機嫌になり、側付きの者を鞭打ったりする

ことが多かった。最近では鞭打つためにひ弱

そうな少年を態々選んで側付きにしているら

しい。怯えて許しを乞う表情が堪らないのだ

った。


 ひと時会話を楽しんでいたルークたちが居

る庭園の外周廊下をクォレルとその侍従たち

が進んできた。


「あのお方がクォレルさまでございます。」


 ルークを案内してくれた侍従が教えてくれ

たときだった。クォレルが庭園に居るルーク

とレイラを見つけて、もともとは表情のない

能面のような顔が、悪鬼のような形相となっ

て二人を睨んだ。そして、暫く動かなくなっ

てしまった。


「どうかしたんでしょうか。」


 ルークはそんな顔で睨まれるような心当た

りは無かった。


「この感じは、あのときと同じだ。」


 急にルークが言った。


「なに、どういうことなの。」


「ヴォルフ公に施された魔道を返した時に実

は魔道を掛けた術士とは違う者の悪意を感じ

たんです。間違いありません、あの人です

よ。」


 とんでもない話だった。アゼリア州太守で

あるヴォルフ=ロジックの命を狙った事件の

首謀者が、実弟であるクォレル=ロジックで

あった。自らが城を留守にしている間にヴォ

ルフの命を奪い、死んだ後帰国するつもりだ

ったのだ。それが、魔道の術をルークに返さ

れてしまい、帰国が遅くなりすぎて疑われな

いうちに帰国したのだろう。


「本当なの。もし本当だとしたら大変なこと

よ。」


 二人は声をひそめて話した。周りにはフロ

ーリアと侍従が一人だけだった。


「あなた達も誰にも云っては駄目よ。私とル

ークとロックとレムスさんで相談するから。」


 若い侍従は蒼ざめてしまいレイラの話もよ

く聞いていなかった。

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