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異世界にて幸せに!  作者: 丸山 八
第一章 異世界
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プロローグ

拙い作品ですが、お付き合いいただければ幸いです。

これからよろしくお願いします。

 芳賀亨はがとおるの人生は、幸せと呼べるものではなかった。


 物心ついた頃には既に父は離婚しており、10歳まで母親に育てられた。

 いや、育てられたというのは些か語弊がある。彼は母親に育てられたという記憶は微塵もないからだ。

 食事はコンビニ弁当を一日一食与えられていたが、それだけだ。それ以外のことを母親が亨にしてくれたことは何もない。

 母親は日がな一日男とイチャついているだけで亨のことなど見ていなかった。そのイチャついている男すら一週間もすれば人が変わるというダメっぷりに、子供ながらに亨は母親を見限ったのを良く覚えている。


 碌な食事を与えられない亨の体は酷くか細く、あまり優れていない容姿も相俟って学校ではいじめの標的だった。

 家に居場所は無く、学校にも居場所は無い。達観するには幼すぎた亨には毎日が地獄だった。

 それでも、いつかは居場所だって出来る、誰か優しくしてくれる人にも出会える、と幼い亨は信じ暮らしていた。


 10年も経てば、人は老いる。

 その例に漏れず、亨の母親も亨が10歳になるころには十分に老け、次第に彼女の周りに男が寄り付くことは無くなった。

 依存していた母親は発狂したように毎日亨へ暴行を加えるようになった。


 傷が目立つようになり、一目見れば誰でも虐待されていることが分かるようにまでなったところで、漸く亨は保護された。


 保護された時には相当に危険な状態だったらしく、母親から親権は剥奪され、亨は父親の元で育てられることになる。

 そこも亨には反吐が出るような場所だった。


 父親は気味の悪い宗教に傾倒しており、訳の分からない教えを説かれたり不気味な集会に連れていかれたりと母親の元とは違う意味で嫌な環境だった。

 この時に、亨は何となく理解した。自分の親はダメな人間なのだと。幸せになりたいのなら自分でどうにかするしかないのだと。


 だから、亨は父親の宗教を受け入れる振りをした。

 父親から反感を買わないように、面倒事を起こさないように。心の中で馬鹿にしながらもその宗教を受け入れている振りをした。

 その甲斐もあり、高校を卒業し就職するまでは暗く陰気な生活を送るだけで済んだ。


 母親、そして父親から離れ、漸く自分はまともな人生を送れるだ。そう思った。

 認められるように必死で仕事をし、人に好かれるように必死で努力した。


 だが無意味だった。

 自分を受け入れてくれる人などいなかった。友人の一人も出来ず、会社では孤立。両親の元に居た時と全く変わらなかった。


 ずっとこんな生活を送っていくのだろうか、そう思っていた時に一人の女性と出会った。

 女性は亨にとても親切で、優しかった。初めて、亨は人生で優しくされた。

 今までの人生を考えれば当然だが、どうしようもなく嬉しかった。

 亨は女性に応えるように尽くし、尽くし、尽くした。本当に嬉しかったから。


 だから、仕方がなかったのかも知れない。

 結婚する前に借金をどうにかしたいと言われて金を渡してしまったことも。


 結果から言うと、亨は騙された。

 結婚詐欺だった。

 亨に向けられた優しさは全て、金目当ての物だった。引っかかる物が無かったと言えば嘘になる。

 言いようのない違和感は感じていた、彼女の言動を変に感じたこともあった。それでも、信じたのだ。いや、信じたかったのだ。

 初めて優しくされたから。


 この結婚詐欺は、亨の心を閉ざさせるには十分だった。

 亨は機械的に生きるようになる。淡々と何も感じないようにして日々を過ごす。

 もう自分が幸せになることなんて考えていなかった。


 そんな亨の前に、再び一人の女性が現れる。

 不細工で魅力の欠片もない貧相な男である自分に、好意を示す女性が。

 また詐欺か、亨は真っ先に思った。うんざりだった亨は彼女を突っぱねるが、彼女は頑として引かなかった。


 しつこく自分に接してくる彼女に、硬く閉ざされていた亨の心は少しずつだが解きほぐしていく。

 亨自身、また人を信じられるようになれたことに驚きと喜びを感じた。


 そして、それを感じさせてくれた彼女と結婚した。


 波乱万丈とも言える人生を送って来て丁度36歳の今日。

 暖房をつけていないため冷え切った部屋の中で一人俯いていた。


『やっぱり貴方じゃダメだった。私にはあの人しかいないの。貴方はもう大丈夫よね』


 先程言われた言葉が心を蝕むようにぐるぐると回る。


 気づいてはいたのだ。それこそ出会った当初から。

 彼女が自分の他に男がいることは。


 それでも彼女を信じていた。自分の心を溶かしてくれた彼女を信じていたかったのだ。


 だが、あっさりと裏切られた。

 同時に理解した。自分は人を信じられるようになったのではなく、信じられるようになりたかっただけなのだと。

 気づいていた醜い現実から目を背けてあの女を信じるふりをしていたことを。


 また裏切られた。

 どうせ自分なんかは幸せにはなれない。

 こんな底辺のような人生しか送れない。

 だったら、いっそ…。


 亨は離婚届の前で自殺をした。

 来世は幸せであることを願って

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