29
丁寧に包装されたネックレスを大事に持って俺は家に帰った。
駅に置いていた自転車に乗り、そのネックレスだけはカゴの中に入れないように気を付ける。
これは自分のものではなく、誰かの為に自分で稼いだお金で買ったものだ、そうやって思うと丁寧に扱わずにはいられなかった。
家に帰ると「亮介、今日はお夕飯酵素玄米だからね?」と、まるで姉貴が自分が作ったかのような口ぶりで言う。
「ふーん、姉ちゃんが作ったの?」んなわけねーのは分かり切ってるけど、聞いてみる。
「ううん作ったのはお母さんだけどね、もうすっごいすっごい、時間かかったんだから。やっと食べられるんだよ?」
「やっとって言ったって作ったのはオカンなんだろ?」
「もうこれだから亮介ちゃんは……」そう言って姉貴は両手を開いて外人がWhy?と言う時にやるような仕草をした。
「なんだよ~」
「酵素玄米って言うのはね、作ってすぐは食べられないのよ?と言っても勿論食べても身体に害はないのよ?でもね、発酵させるから美味しくなるのよ~?で今日やっと3日目ってわけなの、やっと口の中に入れれるんだよ?楽しみ過ぎちゃってどうしましょうって感じなのよ」
「へ~良かったね」
あ~もう面倒くせーなー。そんなん言われたところで興味ねーしよ。俺の頭の中はクリスマスの事で頭がいっぱいで、姉貴の言う言葉なんて右から左にスースーと流れるだけだっつーの。
酵素だろうが、教祖だろうーがなんでも好きにしてくれって感じだ。
そして、半ば強制的に、酵素なんとかっていうやつを食べさせられて見て思ったよ。赤飯じゃねーかと。
「姉ちゃん、これただの赤飯じゃねーかよ。なにが違うんだよ?」
まぁ思うだけということは出来ず、つい声にして出しちゃうんだけどね。
「だから玄米なの。もち米じゃないんだってばー」
「ふーん」まっ、それを聞いても俺にとっては、どうでもいいことで腹が減ったのさえ満たされればそれで満足だった。
そして、俺は財布から金を取り出し「オカンこれ」と言って渡した。
「なによ?このお金は」
「この前言ってた、電気代とかなんとかで家に入れる金」
「え?いいわよ」
「姉ちゃんも払ってんだろ?」
「へ~亮介のくせにやるじゃん」姉貴が嬉しそうに言う。あ~真面目に姉貴の話なんか聞くんじゃなかったよ。本当に。姉貴が入れていた金額は500円だということも知らないで、俺ってやつは、まったく人が良すぎるぜ。
「そうなの?じゃあ、ありがたくもらっておくわね」オカンもオカンだよな。こういう時は、気持ちだけで十分とかなんとか言うもんだろ?受け取ってんじゃねーよ。
高校生から家に金をいれるやつなんて、あんまりいねーと思うんだが。まぁ、渡しといてから文句を言うのもな。
でもよ?これからデートの予定とかいっぱいはいっちゃったりとかしちゃったらさ、お金が湯水のごとく出てくんじゃん?
そのためにも、しっかり働いて貯金せねばな。
アルバイトからの帰り道、自転車で帰るには厚手のコートを羽織らなければ、身体の芯から凍り付きそうな程にめっきりと寒くなっていた。




