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―――早く開けてくれ。ドンドンと大きく扉を叩いては、ドアノブを何度もガチャガチャと引っ張る。
振り返ると、すぐそこまで、多田さんがこちらに向かって走ってきている。
オカン早くしてくれ、と冷や汗がだらだらと額から零れ落ちる。
「亮介、こっち」その時、姉貴が廊下にある小さめの窓を開けながら俺を呼ぶ。
走ってこっちに来る多田さんの姿を見ながら、焦る。
急いで廊下の小さめの窓のサンに手をかけよじ登る。靴を脱ぐようなそんな暇はない。
間一髪___。なんとか中に入れた。急いで窓を閉める。
ハァハァ―――ッ。
「亮介、大丈夫?ハンカチでしょう?」
そう言う姉貴の言葉に、うんうんと大きく頷くのが精いっぱいだった。
「やっぱり。玄関開けようと思ったけど、こっちの方が早いと思ってさ」
息を切らしながら窓から外を覗く。多田さんの薄い頭がチラリと見える。
俺はそのまま外をじーっと見張る。
多田さんの姿はそのうちに見えなくなった。諦めたのだろうか。特に大きな声を出して罵声を浴びせてくるようなことはなかったため、いささか気分が軽かったが、こんな気分ほもうたくさんだった。
恐る恐る玄関を出てポストを開く。
良かった、何も入っていない。
ホッとして自転車を起こす、その時、「これ、忘れちゃいけないよ」そう言いながら誰かが俺の背中を叩く。
固まりながら後ろをゆっくりと振り返る……。
多田さんの姿であった。多田さんはニヤッと微笑むんでいるものの、目が笑っていない。赤いハンカチを手渡され、全身の力が抜けてしまった俺はその場に倒れこんだ。
ズルい。そんなのアリなのかよ。一回家に入ったら良かったんじゃないのかよ。
チクショ―――。
起き上がり、左隣の家のポストにハンカチを入れて家に入る。
「オカン、玄関のカギを掛けるのやめてくれ」少し強めの口調で言う。
「ごめん、つい癖でかけちゃうのよ」
「ハンカチを入れて捕まったら減点になるんだからな」
「うん、わかったわ。気をつけるから」オカンは申し訳なさそうにして台所で野菜を切り進めた。
その後、しばらく赤いハンカチが俺の家に入っているようなことはなかった。
「関谷君、クリスマスの日空いてる?」川嶋さんが満面の笑顔で聞いてくる。
「クリスマスって25日だっけ?」
「うーんイヴの24日がいいな」
「何かあるの?」
「一人だと寂しいし、やっぱクリスマスは誰かと居たいなーって思ってさ」
「まぁね」
俺だって俺だって、川嶋さんと一緒の意見に決まってるじゃねーか。クリスマスに家族でいるよりも女の子と居たいに決まってるじゃん。




