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「えーでも結構前じゃなかったっけ?」
「なんでも、早く引っ越したかったみたいで、荷物を早めに運びながら、ご両親の家に住まわしていただいていたらしいわよ」
「へぇ~、じゃあご両親のとこにそのまま住めばよくない?」
「まぁ色々と事情があるんでしょうね。一時的なものずーっと一緒に住むとなると、また事情が変わってくるものなのよ」
「ふーん、まぁ千絵には分かんないなぁ。でもさ、お母さんなんでそんな詳しい事知ってんの?」
「近所の人から聞いたのよ」
「えー誰それ?」
「えーっと、名前何だっけ?朝はいつもネグリジェ着てゴミ捨てにくる人なんだけど」
オイ、名前も知らないような人から、そんな話を聞くのかよ。心の中で、そう思う俺は、それを口に出さず、余計な事を言わないようにお口チャックを心がける。
「ネグリジェ?全然わかんないよ、誰それ」
そりゃそーだ。
「うーんっと、ほら髪にカーラーつけてて……」
だから、そんなんで分かるわけねーっつうの。
「そんなこと言っても、カーラーなんて朝だけじゃん」
「そうだわ、思い出したわ。名前知らないわ」
オイ、結局初めから知らんかったんかい。
「えぇ……?なにそれ?」姉貴はマジウケルしと続けながら、手を叩いて笑っている。
「ほらっ一々ゴミ捨ての時にお早うござます、関谷ですとは言わないじゃない?」
「まぁ、朝は忙しいもんね。でも、お母さんマジで超ウケるんだけど」
二人の会話を聞きながら、呆れたように冷ややかな目で、二人を見た後、二階に上がった。
引っ越し先が火災ね~。
そこに引っ越すなと言わんばかりにそんな事が起きるもんかね。
いや、待てよ。これがハンカチを入れる事を考案した奴の仕業だとしたら……?
いや、いくらなんでも考えすぎだよな?
う~ん。
シャープペンシルを右手で持ちながら、カチカチと芯を出しては、机に芯を押し当てて芯を引っ込めて再びカチカチと芯を出す。
でも、その可能性がなくもないよな……。うーん。
もし、本当に火災を起こしたのがハンカチの犯人だとすれば、引っ越し先の住所を何故知っているんだ?関井さんが話したのか?
でも、関井さんがポストに入るハンカチに疲れて引っ越しした動機がそれだとしたら新住所は誰にも教えないんじゃないか?
その場合、犯人はどうやって新住所を調べたって言うんだよ?役場とか行けば分かるものなのか?
。
そんな事を考えた所で一体何になるって言うんだよ。あ~クソッ、馬鹿らしい。




